軍事用語・海の用語 [翻訳]
(1)“RHIB(硬式ゴムボート)”――と訳されると、硬いゴムボートみたいだ。正確には「膨張式硬式船体艇」、「複合艇」と呼ばれることもある。ゴムが使われているのはブルワークの部分。
(2)“最高時速は……四五ノット”――まず、船の場合、「最高時速」とはいわない。「最高速力」か「最大速力」としてほしい。さらに、「ノット」は海里/時間であるから、「時速」は不要だ。そして、舞台が海や空であるなら、原文がmileでも単位はstatute mileではなく、nautical mileなのだ。子午線の1分が1海里、1度は60海里に相当する。おおざっぱにいえば、30ノットで二時間航行すると、地図上の緯度1度の距離を移動したことになる。陸上距離の単位であるstatute mileは、海や空ではあまり意味がなく使いづらい。また、1海里(1852m)はほぼ2000ヤードなので、ヤードはメートルよりも換算しやすく、測距や射撃の単位として便利なので、よく使われる。
(3)“フリゲート艦”――「フリゲイト」や「コルヴェット」に「艦」を付すのは、素人っぽい。“ヨット船”としないのとおなじ。
ついでに――救命艇と救命筏は区別してほしい。前者は航走できるものが多いが、救命筏(たいがい膨張式)には航走するための装置がない。エンジンは「機関」と訳す(ディーゼル機関、等)。商船は「機関室」だが、軍艦は「機械室」。商船は「船橋」だが、軍艦は「艦橋」。艦の場合は「艦首」「艦尾」、艇では「艇首」「艇尾」。以下は参考資料。
気になることば [翻訳]
http://hnishy.la.coocan.jp/militerms.html
新シリーズ!「デートに学ぶホンヤク成功法」その2 [翻訳]
憧れの彼からデートを申し込まれたけど、ちょっと用事があって間に合いそうにない。10分ぐらい遅れそうだけど、「エー、その時間じゃ」としょっぱなからいうのもナニだし……。そういう時は、すこし遅れるのは気にせず、快諾しましょう。そして、ホームから彼の待っているところまで、走る! 走る! 「遅れてゴメン」とはあはあいいながらいえば、上気して肩で息をしているあなたを見て、彼は一所懸命でカワイイと思ってくれるでしょう。キューピッドにうしろ髪はないから、向こうからやってきたチャンスを逃してはダメ。でも、あくまで10分ぐらいですよ。それに、汗かきのあなたはやめたほうが賢明かもしれません。
* *
仕事は得てしてギリギリのスケジュールの場合が多いです。ちょっと無理かなと思っても、できるだけ引き受けましょう。テキも多少は余裕を見ているはず。なんとかやるという、その気持ちがつぎにつながります。最初からあきらめていたら、なにも成就できないでしょう? チャンスは何度もないものだから、必死でやるべきです。でも、内容が悪くてはこれまたダメ。仕事は質と量のバランスをつねに考えて。
☆紹介している本と記事は関係ありません。
新シリーズ!「デートに学ぶホンヤク成功法」その1 [翻訳]
あなたが彼とイタリアン・レストランで食事をしていて、パスタがちょっと茹ですぎだったとしよう。けっして文句をいってはいけない。彼のほうも、「シマッタ、この店、失敗!」と思っているはずだ。わかっているのを指摘するには及ばない。楽しくお話をして、「また誘ってねー」とぶりっこすれば、次回、もっといいレストランに連れていってくれるだろう。文句をいったら「ナニやつ!」と思われてしばらくは気まずいよ。
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頼まれたホンがあまり面白くなくても、ベストをつくしましょう。仕事が終わってから、あそこがこう、ここがこう、と欠点をあげつらったら、「それなら最初からやらなければいいじゃん」「ダメ作品なら部数減らそうかな」「このシリーズはもう頼めないかも」という思いが、編集者の頭をチラリとよぎります。オリジナルから5パーセントでも10パーセントでもましなものができれば、「次回はもっといいのを頼もうかな」と思われます。
☆紹介している本と記事は関係ありません
イギリス英語にご用心 その1 [翻訳]
elevatorがlift、trunkがbootなんていうのはだれでも知っているが、ベテランの翻訳家でもよくまちがえている「御三家」がある。jumper、vest、trainerの三つである。jumperは「ジャンパー」ではなく「セーター(プルオーバーの)」のことだし、vestは「チョッキ waistcoat」ではなく下着のシャツのこと、trainerは「トレーナー」ではなく「スニーカー」だ。まあ、ほんとうによくまちがえていること……。でも、この三つさえおぼえていればBob's your uncle!
とはいかないよ。まだまだありありのこんこんちき。
wagonって書いてあるからstation wagonかと思うと、そうではなく、ただのクルマのこと。ステーションワゴンは、イギリスではestateだ。フランス風にbreakなんていうこともある。ミニバンみたいなのはpeople carrierという。
fry-upは辞書には「ありあわせの炒め物料理」と書いてあるが、イギリス流のこってりした朝食――ソーセージ、ポテト、目玉焼き、ベーコン――のことだ。
また思いついたら書こう。どうだいよく知ってるだろ――おっと、Touch wood!
新・翻訳アップグレード教室(13) [翻訳]
翻訳学校で教えていると、「英語が好きで翻訳をやりたい」といっている割りには、英語の勉強に興味がないのではないかと思うことがままある。新しい英語の辞書、英語を学ぶのに役立つ本をあまりにも知らなさ過ぎる。ちょっと本屋へ行けば語学のコーナーに見つかるような本、英米の文化を学べるような手軽な本をまったく知らないのには驚く。
ここで挙げる『日本人の英語』など、英語の「てにをは」を知るには必携必読だと思うのだが、(生徒たちが)題名をメモしているところを見ると、読んだことはおろか、存在すら知らなかったのだろう。
翻訳書を何冊か世に出したからといって、勉強を怠ってはいけない。このあいだある翻訳書をぱらぱらとめくっていたら、「苦しんでいる乙女」という訳語にぶつかって唖然とした。原文はdamsel in distress「困っている(苦境にある)乙女」のはずだ。「苦しむ」は自分に原因があるわけで、まったく意味がちがう。damsel in distressは、たとえば悪漢に捕らわれて白馬の騎士が助けに来るのを待っている乙女のことだ。こういう訳語をひねり出すとは、騎士道物語を読んでいないか、よっぽど不注意なのだろう。
アメリカ版白馬の騎士のcavalry(騎兵隊)は、現在では「(ヘリコプターもしくは自動車化の)機動部隊」を指すが、これもIndian country(敵地)にいるときや窮地に陥ったときに援けに来てくれるという文脈では、「騎兵隊」と訳さないと意味が通らない。
先日、あるところで「堀部安兵衛」とはだれですかという質問が出て、きかれた人(比喩に使ったご本人)がびっくりしていたが、それと似ている。英語でも、こういう常識を知らないと大恥をかく。
新・翻訳アップグレード教室(12) [翻訳]
きょうは小さな大辞典の話をしよう。
ちかごろは英和辞典でも動詞の求める文型がわかるようになっているものが多い(『ジーニアス』など)。以前はなんといっても「ホーンビー」だった。Idiomatic and Syntactic English Dictionaryというこのちっちゃな辞書は「新英英大辞典」と称している。高校時代から使っていたのがぼろくなったので、古ハンカチとボール紙で装丁し直したのが写真のやつ、すこし大きな版になった新しいものもならべよう。
この系譜の辞書にはほかにOXfordのAdvancerd Lerner'sなどがあるが、とにかく日本人のための英英辞典であるだけに語義の説明がわかりやすいのがいい。「英文法に弱い」と思っている向きには必携だろう。どんな長文でも、主語と述語さえしっかり把握すれば、あんがい誤訳しないものだ。そのためにも、文型のパターンを知ることがだいじになる。
新・翻訳アップグレード教室(11) [翻訳]
きょうは小さな辞書の効用について。
中高生の学習辞書も、なかなか馬鹿にしたものではない。いまの版は知らないが、『ニュー・アンカー英和辞典』には、なかなか役立つ付録が巻末についている。「1.重要補の日英比較」を見れば、shoulder=肩ではなく、「背中」と訳したほうがよい場合もあるとわかる。thigh=太腿ではなく、「膝」のほうがよい場合もある。waist=腰ではなく、hip=尻ではない。waterには「湯」もふくまれる。fryは「揚げ物」とはかぎらない。「2.ジェスチャーの日英比較」も役に立つ。うちにあるのは第2版第10刷(1992年)までで、新しい版はずっと見ていないので、こうした付録が継承されているかどうかはわからないが、この手の英和辞典は古書店でも安く手にはいるはずだから、古本屋歩きのときにでも捜せばよいだろう。
勤めをしていたころ、通勤電車のなかで使うのに役立ったのは『表音小英和』だ。15×9センチぐらいの辞書だが、発音記号、前置詞や数詞などを省き、その分収録語数を増やして、あくまで単語の意味を知る辞書に徹底している。以前はペイパーバック風の装丁のものがあって、電車でペイパーバックを読むと気にそれをさんざん使ったものだが、現在は革装しかないようだ。携帯には革装のインディア・ペイパーのほうが便利だろう。この辞書は『GEM』などよりずっと役に立つ。
『コンサイス時事英語辞典』もちいさいが便利な辞書だ。1999年に改訂され、『新コンサイス時事英語辞典』となったが、残念なのは本文中の地図・表・グラフが減らされて巻末にまとめられたことだが、語義記述はかなり現実に即したものになっている。マスコミ関係の表現を訳すときなどに重宝する。
こうした小さな辞書が使いこなせるようになれば、いちだんと訳文のブラッシュアップが図れるはずだ。
クリス・ライアン、デイル・ブラウン [翻訳]
クリス・ライアン『テロ資金根絶』(仮題)――7月刊行予定・早川書房のゲラが終了。テロリストものはアラビア語が出てくるので、せめて辞書がひけるように、せめてアラビア文字(アラビア語、まではいかない)をおぼえようと勉強中。短い単語ならわかるようになった。また、『聖クルアーン』の引用については、全文から検索できるサイトがあるので、なんとかなる。原文で『千夜一夜物語』を読もうともくろんでいた亡父が蒐めていたアラビアの辞書や『聖クルアーン』も役に立った。クリス・ライアンの原書は、事実を考証し、訂正して訳す必要がある部分が多々ある(拳銃の装弾数など)が、筋立てはあいかわらずうまくできているし、スリルもある。
デイル・ブラウンについていえば、前作の『炎の翼』が派手な割りにややパターンに陥っていたのに比して、中央アジアのトルクメニスタンを舞台とするこのAir Battle Force(今年中に刊行予定・二見書房)は、テンポもよく、快調に訳すことができた。ことに戦車部隊による地上戦の部分に迫力があり、イラク戦争の経験者の知恵も借りているのではないかと思える。こちらは先週訳了したばかり。乞うご期待
新・翻訳アップグレード教室(10) [翻訳]
だれでもパソコンや電脳辞書を自分の使いやすいようにカスタマイズするということをやっているだろう。紙の辞書もそういうふうに自分仕様にするといい。訳語を辞書に書き込むことについては前に触れたが、ここでは『最新英語情報事典・第2版』(以下『英情2』と略す)をカスタマイズする方法を説明しよう。
必要なもの――付箋、鋏、糊。『英情2』
第2版とはいっても1986年の改訂で、いささか古いのだが、それでもじゅうぶん役に立つ。情報のかなりの部分が《ランダムハウス》に取り入れられているが、《ランダムハウス》は電脳辞書で使う場合が多いだろうから、こちらはこちらで役に立つ。
『英情2』を活用するには、重要な図表のページをぱっとひらくことができるようにするといい。そのために、付箋を半分ぐらいの長さに切り、糊でページの隅に貼って、見出しを書き込む。僕の「常用ページ」をいくつか挙げよう。
P226 ハイウェイ・パトロールの組織
P307 ワシントン市警の組織
P460 米連邦議会の常任委員会
P847 会社組織
P926 米国の教育制度(これは『プログレッシブ英和辞典』にも載っている)
P1051 ロサンゼルス郡保安官事務所の組織
P1110 ペンシルベニア州警察の組織
P1229 アメリカ合衆国政府機構
P1269 ホワイトハウス事務局スタッフの役職名
P1270 ホワイトハウス(見取り図)
ちなみに、図表のタイトルは索引に太字で記されているので、それを見て自分に必要な場所に付箋を貼るといい。このテクニックは、他の資料でももちろん使える。辞書と鋏は使いよう――というわけ。背表紙に近いところに貼るとめくりにくいよ。念のため。