フォードvsフェラーリ#2 [映画]
最初の爆音でちょっとびびったが、こういうストレートなアメリカ映画、嫌いではない。家族のことも描かれているし、車を見ているだけでも楽しい。それに、エンツィオ・フェラーリのかっこいいことといったら……でぶのフォードや重役陣とは人物がちがうね。シェルヴィーコブラで名高いシェルヴィーがかかわっていたのは知らなかったが、ブレーキやオイルの問題など、レースではつねに極限状態になるから、生死を分ける――緊迫感もある。ちょっと心拍数があがるかもしれない。ところで以前、「オイルを食う」という原文を「ガソリンを食う」と訳していたかたがいたが、これはメカニックでも誤解しがちなことだ。外車は、ガソリンだけではなく、オイルも消費する。日本車のようにオイルがほとんど減らない車に乗っているとわからないことかもしれない。しかし、以前はオイル交換ぐらい自分でやりましたけどね。
フォードvsフェラーリ [映画]
最初の爆音にぶったまげ、IMAXにしなくてよかったと思ったが、家族や企業のドラマや自動車への愛があって、とてもよかった。シェルヴィー・コブラはかっこいいし。主人公のドライバー、ケン・マイルズはすばらしいが、フォードの経営陣よりもずっとフェラーリの幹部のほうがかっこいい。車もGT40よりフェラーリのほうがかっこいい。伏線もあって、ハリウッドらしい映画だとはいえ、なかなかよくできています。http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/
『カントリー・ストロング』 [映画]
『クレイジー・ハート』でも思ったのだが、この作品もアメリカ映画のちょっとした変質を感じさせる。薬物やアルコール依存症のカントリー歌手が立ち直る話はいっぱいあって、ジョニー・キャッシュを描く『ウォーク・ザ・ライン』にもそういうエピソードがある。しかし、『カントリー・ストロング』の登場人物たちは、物事に対してもっと曖昧(黒白をつけない)し、暴力的な面がずっと薄れている。主人公たちの恋愛や友情にも深みが出ている。こういう映画を見ると、世界一の超大国であるアメリカがいくぶん衰退し、ヨーロッパ的になるのも悪くないと思わせる。アメリカは一貫して右か左か(単純すぎるいいかただが)に揺れる国だったが、その揺れに変化が出てきたような気がする。強者としてではないやさしさがにじみ出てきたとき、アメリカはひと皮剥けるのではないか――という気がした。しかし、興行的に難しいのだろうが、こういう佳品(傑作とはいえないが)を公開できない日本という国は、いったいなんなのだろうか。これは地に足がついた物語なのに。カントリー歌手のティム・マッグローが、主人公のカントリー歌手役のグウィネス・パルトローの夫という役柄で、一曲も歌わず、歌手らしくない風貌なのもご愛嬌。
「五線譜のラブレター」 [映画]
「ビギン・ザ・ビギン」「ラヴ・フォー・セール」「ナイト・アンド・デイ」などの名曲をつくったコール・ポーターを描く映画。彼はバイセクシャルだったのだが、あふれんばかりの愛情ゆえで、退廃的・破滅的な人間というのとはちがっていたようだ。リンダ夫人との出会いは、成功するまで時間のかかった彼にとって、とてもしあわせなことだった(内助の功というのではない)。コール・ポーターが五線譜につづってきた愛情を、数々の名曲から読みとることができる。
![ジャズ・クラブ~コール・ポーター・ソングブック ジャズ・クラブ~コール・ポーター・ソングブック](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41%2BRT86x74L._SL160_.jpg)
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- アーティスト: ビル・エヴァンス,ソニー・スティット,ピート・カンドリ,アート・ヴァン・ダム,スタン・ゲッツ&ジェリー・マリガン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2008/08/06
- メディア: CD
イングロリアス・バスターズ [映画]
仕事のあいまを縫って有楽町で見てきた。例によってグロい場面はあるが、さすがタラちゃん。観客を飽きさせることがない。幕を分ける手法もなかなかであった。ブラピもこういういいおっさん役がうまくなってきたなあ。というか、これはジョン・ウェインのノリじゃないか、と思ったのはボクだけだろうか。なにしろオープニング・テーマがジンタにした「遥かなるアラモ」ときているからね。
ついでにこの本も読もう。第二次世界大戦が舞台の冒険小説の佳作だ。
ついでにこの本も読もう。第二次世界大戦が舞台の冒険小説の佳作だ。
サブウェイ123 激突 [映画]
ハワイへ行く機内ではじめて見たのは、原作を担当したトンデモ編集者I田某がきちんと試写会を手配しなかったから。まずはそのおもしろすぎる話題から。
(1)メールが来て、顔もあわせすにゲラの予定を一方的にいってきたので、「会ったこともない編集者と仕事をしたことはない」というと、いちおうゲラを持ってきた。
(2)その初校ゲラは、ふつうエンピツを入れるようなところを勝手に直し、なおかつ表記もすべて変えてあった。「こんなものできるか! もとに戻せ」と丁重にいったが、日程的に無理なので、真っ赤っかにして返した。勝手に直したところは、なんの根拠もない。たとえば登場人物の表記だが、映画を見て前の訳のものを直したのに、それをまた直してきた。
(3)その後、疑問点などについてのやりとりはまったくなし。
(4)訳者略歴を書いたのを送ってきたが、『ブッシュの戦争』などの「軍事・政治小説」には恐れ入った。フィクションとノンフィクションの区別もわからないのかい。
(5)「あとがきはいらないのか」と問い合わせたところ、ページの関係でいらないとのこと、それならそっちからいうのがほんとうだ。忘れていたんじゃないのか?
(6)アマゾンにもう出ていたので、「見本ができているはずだが」と問い合わせると、翌日になって「きのうできたので送りました」と返事があった。ふつうなら見本があがる予定を連絡し、献本についてきくのがあたりまえ。定価や部数についての連絡もいっさいなし。
(7)一般試写会がはじまっているので、「試写会はないのか?」と問い合わせると、「今回、マスコミ向けの試写会はなく、自分もソニーピクチュアズの社内試写会に潜り込んだ」との返事。「試写会については後日連絡する」といっていたのだから、ゴマカシか嘘だというのが見え見え。配給会社が試写会をやらないわけがない。
これが勤続20年くらいのベテランだからあきれてしまう。25年近くやってきたが、はじめてこういう御仁にお目にかかった。
あ、肝心の映画は、とりたててよくできているというものでもない。トラボルタがうまいだけで、ウォルター・マッソー主演の最初の「サブウェイ・パニック」のほうがずっといい。それを見るか原作を読むことをお勧めします。
(1)メールが来て、顔もあわせすにゲラの予定を一方的にいってきたので、「会ったこともない編集者と仕事をしたことはない」というと、いちおうゲラを持ってきた。
(2)その初校ゲラは、ふつうエンピツを入れるようなところを勝手に直し、なおかつ表記もすべて変えてあった。「こんなものできるか! もとに戻せ」と丁重にいったが、日程的に無理なので、真っ赤っかにして返した。勝手に直したところは、なんの根拠もない。たとえば登場人物の表記だが、映画を見て前の訳のものを直したのに、それをまた直してきた。
(3)その後、疑問点などについてのやりとりはまったくなし。
(4)訳者略歴を書いたのを送ってきたが、『ブッシュの戦争』などの「軍事・政治小説」には恐れ入った。フィクションとノンフィクションの区別もわからないのかい。
(5)「あとがきはいらないのか」と問い合わせたところ、ページの関係でいらないとのこと、それならそっちからいうのがほんとうだ。忘れていたんじゃないのか?
(6)アマゾンにもう出ていたので、「見本ができているはずだが」と問い合わせると、翌日になって「きのうできたので送りました」と返事があった。ふつうなら見本があがる予定を連絡し、献本についてきくのがあたりまえ。定価や部数についての連絡もいっさいなし。
(7)一般試写会がはじまっているので、「試写会はないのか?」と問い合わせると、「今回、マスコミ向けの試写会はなく、自分もソニーピクチュアズの社内試写会に潜り込んだ」との返事。「試写会については後日連絡する」といっていたのだから、ゴマカシか嘘だというのが見え見え。配給会社が試写会をやらないわけがない。
これが勤続20年くらいのベテランだからあきれてしまう。25年近くやってきたが、はじめてこういう御仁にお目にかかった。
あ、肝心の映画は、とりたててよくできているというものでもない。トラボルタがうまいだけで、ウォルター・マッソー主演の最初の「サブウェイ・パニック」のほうがずっといい。それを見るか原作を読むことをお勧めします。
黄色いロールスロイス [映画]
久しぶりに夜更かしして見てしまった。ジャンヌ・モロー、シャーリー・マクレーン、イングリッド・バーグマンと、好みの女優が三人も出ているのにいままで見ていなかったのは不思議ぐらいなんだけど、たぶんレックス・ハリソンの顔と甲高い声が先に頭に浮かんだからだろう。
3話のオムニバスで、第1話はレックス・ハリソン(英貴族)が妻ジャンヌ・モローに黄色いロールスロイスをプレゼントしたことから話ははじまる。1964年だからジャンヌ・モローは36歳のはずだけど、もっと若く見えて、コケティッシュでかわいい。
第2話のシャーリー・マクレーンがこれまたかわいい。ギャングの婚約者で、イタリアに来ているのだが、チンピラのカメラマンとしてアラン・ドロンが登場する。59年の「太陽がいっぱい」のときとくらべると、すこし肉付きがよくなったような感じだが、シャープな不良っぽさは残っている。
第3話のバーグマンが、三人の美女のなかではいちばん年上だ。「誰が為に鐘は鳴る」よりずいぶん貫禄がついているが、それもそのはず、あれから20年もたっている。お相手はトール・ダーク・ストレンジャーのオマー・シャリフ。14歳も年下だぞ。となるとハーレクインなみのお話だが、ユーゴスラビアのレジスタンスに加わってバーグマンがロールスをすっ飛ばすなど、アクションも楽しめる。1960年代のオマー・シャリフは、「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」など、独特の風貌を活かした役柄で大当たりを出している。
「黄色いロールス」はとにかく楽しい映画だが、最後のエピソードではほろりとさせられる。さすがバーグマンだ。
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3話のオムニバスで、第1話はレックス・ハリソン(英貴族)が妻ジャンヌ・モローに黄色いロールスロイスをプレゼントしたことから話ははじまる。1964年だからジャンヌ・モローは36歳のはずだけど、もっと若く見えて、コケティッシュでかわいい。
第2話のシャーリー・マクレーンがこれまたかわいい。ギャングの婚約者で、イタリアに来ているのだが、チンピラのカメラマンとしてアラン・ドロンが登場する。59年の「太陽がいっぱい」のときとくらべると、すこし肉付きがよくなったような感じだが、シャープな不良っぽさは残っている。
第3話のバーグマンが、三人の美女のなかではいちばん年上だ。「誰が為に鐘は鳴る」よりずいぶん貫禄がついているが、それもそのはず、あれから20年もたっている。お相手はトール・ダーク・ストレンジャーのオマー・シャリフ。14歳も年下だぞ。となるとハーレクインなみのお話だが、ユーゴスラビアのレジスタンスに加わってバーグマンがロールスをすっ飛ばすなど、アクションも楽しめる。1960年代のオマー・シャリフは、「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」など、独特の風貌を活かした役柄で大当たりを出している。
「黄色いロールス」はとにかく楽しい映画だが、最後のエピソードではほろりとさせられる。さすがバーグマンだ。
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- 出版社/メーカー: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
- メディア: DVD
ONCE ダブリンの街角で [映画]
〈ブロークバック・マウンテン〉 [映画]
この映画は映画館の大画面で見るべきだったと後悔した。自然描写が美しいからだ。それに、このテーマを、都会ではなく自然を舞台にしたところが、この作品のよさのひとつだろう。ひとつだけ付け加えるなら、sodomyは州によっては重罪とされるので、ふたりのカウボーイの関係は、あくまで秘されなければならなかった。それがわからないと、この愛の成就が難しかったことが理解できないだろう。
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ブロークバック・マウンテン プレミアム・エディション [DVD]
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- メディア: DVD
〈もののけ姫〉 [映画]
宮崎駿の映画は、それほどシリアスには見ていない。というのも、子供向けのようでいて、オトナが見ると凝ったところが目に付いてしまうからだ。それは欠点ではないが、「ちょっと待て」と考えてしまうので、あまり娯楽として楽しめなくなってしまうのが、オトナの悲しいさがだろう。
たとえば〈紅の豚〉の飛行機の空の葬列は、ロアルド・ダールの短編からヒントを得たものだろう。ちなみに、ダールの短編集『飛行士たちの話』では、この短編の題を「彼らは年をとらない」としているが、アンソロジー『翼を愛した男たち』の拙訳では「彼らは永らえず」とした。
前置きが長くなったが、この〈もののけ姫〉にも、わかる人にはわかるヒントが多数隠されている。中世の風景(人間も含めた)を見たくて見たのだが、たたら場で「てっぽう」を製造しているのは、ハンセン氏病に冒されたひとびとである。そのてっぽうを撃つ集団は、柿色の衣を着て、顔を隠している。これは非人であるだろう。犬(おおかみ)や猪が、森の神を象徴しているのは、いうまでもない。もののけ姫は森であり、たたら場は森を侵す文明だから、この二者は対立しているのだが、そこに第三勢力が登場してはじめて、両者は共存しなければならないことを悟る。
いま、環境問題という重いテーマの本を訳しているのだが、ちょっとした息抜きになるとともに、深く考えさせられる作品だった。なお、中世の風景、河原のひとびとについてのビジュアルな資料としては、司修のこの絵本がすばらしい。いわば現代の絵巻物であろうか。つくづく眺めていたい本である。
こうしたまつろわぬ民については、いずれべつに項目を立てて書こう。
![河原にできた中世の町―へんれきする人びとの集まるところ (歴史を旅する絵本) 河原にできた中世の町―へんれきする人びとの集まるところ (歴史を旅する絵本)](http://images-jp.amazon.com/images/G/09/x-locale/detail/thumb-no-image.gif)
たとえば〈紅の豚〉の飛行機の空の葬列は、ロアルド・ダールの短編からヒントを得たものだろう。ちなみに、ダールの短編集『飛行士たちの話』では、この短編の題を「彼らは年をとらない」としているが、アンソロジー『翼を愛した男たち』の拙訳では「彼らは永らえず」とした。
前置きが長くなったが、この〈もののけ姫〉にも、わかる人にはわかるヒントが多数隠されている。中世の風景(人間も含めた)を見たくて見たのだが、たたら場で「てっぽう」を製造しているのは、ハンセン氏病に冒されたひとびとである。そのてっぽうを撃つ集団は、柿色の衣を着て、顔を隠している。これは非人であるだろう。犬(おおかみ)や猪が、森の神を象徴しているのは、いうまでもない。もののけ姫は森であり、たたら場は森を侵す文明だから、この二者は対立しているのだが、そこに第三勢力が登場してはじめて、両者は共存しなければならないことを悟る。
いま、環境問題という重いテーマの本を訳しているのだが、ちょっとした息抜きになるとともに、深く考えさせられる作品だった。なお、中世の風景、河原のひとびとについてのビジュアルな資料としては、司修のこの絵本がすばらしい。いわば現代の絵巻物であろうか。つくづく眺めていたい本である。
こうしたまつろわぬ民については、いずれべつに項目を立てて書こう。
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河原にできた中世の町―へんれきする人びとの集まるところ (歴史を旅する絵本)
- 作者: 網野 善彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1988/09
- メディア: -