『インテリジェンス用語事典』 [本・読書]
こういう本がいままで出なかったのは不思議なくらいだが、なかなか役に立つ情報が盛り込まれている。買っておいて損はない。「ノイズとシグナルの問題」といった項目も秀逸だ。調べものに使うだけではなく、通読しておくべき本だ。
『暗黒地帯』クランシーのオプ・センター [本・読書]
ウクライナ情勢が、いよいよきな臭くなってきた。NATOと米軍は東欧への戦力増強を行なっている。この本は、状況は異なるものの、ロシアとウクライナの国境付近の騒擾を描いている。
暗黒地帯(ダーク・ゾーン)(上) (扶桑社BOOKSミステリー)
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2021/09/02
- メディア: Kindle版
暗黒地帯(ダーク・ゾーン)(下) (扶桑社BOOKSミステリー)
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2021/09/02
- メディア: Kindle版
チャーチル・ファクター ボリス・ジョンソン著 石塚・小林訳 [本・読書]
危機の指導者チャーチル 冨田浩司著 [本・読書]
第二次大戦、諜報戦秘史 岡部伸著 [本・読書]
大英帝国衰亡史 中西輝政著 [本・読書]
歴史のツボを心得ているとてもよい本だ。たとえばレンド・リース法(武器貸与法が誤訳であることも指摘されている)がイギリスを縛る罠で、そのためにイギリスの貿易が禁じられ、衰亡につながったことが説明されている。イギリスは本土防衛戦に勝利したが、外貨準備は底をついていた。「帝国が千年つづいたとしても、あれが帝国最良のときであったと語られるようにふるまおう」とチャーチルは演説したが、それは帝国最期のときでもあった……。この訳にも感銘を受けた。Their Finest Hourはしばしば「もっとも輝かしいとき」と訳されているが、finest は堂々と、立派に、善戦したことを指している。この時機が「輝かしい」はずがないではないか。
『レジェンド・ゼロ1985』鳴海章 [本・読書]
1980年代半ば、アメリカが核攻撃するのではないかと疑心暗鬼に陥ったソ連とアメリカが、核戦争の瀬戸際に達したことは、あまり知られていない。いわば第二のキューバ危機だった。この本はそんな時代を背景に、日本の航空自衛隊で長年活躍し、米軍パイロットをも感心させたF-4ファントム戦闘機とそのパイロットたちを描いている。さらに、核ミサイルを抱いたソ連の大型爆撃機Tu-95の搭乗員たちの人間模様も描かれ、アメリカ海軍空母のF-14トムキャットのパイロットたちも登場する。ダブル台風のなかで、三つ巴の戦い――ミサイルや機関砲の応酬はなくても、これは戦争なのだ――がくりひろげられる。第三次世界大戦が起きなかったのは歴史的事実だが、まるで操縦教範のような詳しい描写にうならされる。そして、結末に読者はほっとすることだろう……。「一発も撃たせるな」勝利はそこにしかない――という緊張感のもとで行動する空自のパイロットたちに乾杯!
誤訳、しかも状況がまったくわかっていない例 [本・読書]
資料に買った本に目を通していたのだが、ちょっとあきれるような訳にぶつかった。
「長く憂鬱な潮の流れにあらがって立っていた強靭な若者が、誤算と弱気のせいで屈服する姿が目に浮かぶ」原文は、"There seemed one strong young figure standing up against long, dismal, drawling tides of drift and surrender, of wrong measurements and feeble impulses."いつでも肝心なのは主語と動詞。それはseemedしかない。drift and surrenderとwrong measurements and feeble impulsesの引き潮に敢然と立ち向かっているように見えたのであって、屈服してはいない。drift and surrenderはもちろん不可算名詞。”状況がわかっていない”というのは、これがチャーチルのイーデンに対する賛辞であるのに、「屈服した」ととらえていること。意味がまったく違ってくる。だいいち、この訳では若者が「誤算と弱気」を起こしたように読める。さらにいえば、drift and surrenderとwrong measurements and feeble impulsesは並列であり、前者を後者が具体的に説明している。それすらわかっていない。これはこの本でも重要な一文なので、責任ある訳者なら、機会があれば訂正すべきだろう。この前のthe dark waters of despairも「水」と訳されているが、watersというように複数形にされた場合には、ただの「水」ではない。これも辞書をきちんと引いたほうがよろしかろう。
「長く憂鬱な潮の流れにあらがって立っていた強靭な若者が、誤算と弱気のせいで屈服する姿が目に浮かぶ」原文は、"There seemed one strong young figure standing up against long, dismal, drawling tides of drift and surrender, of wrong measurements and feeble impulses."いつでも肝心なのは主語と動詞。それはseemedしかない。drift and surrenderとwrong measurements and feeble impulsesの引き潮に敢然と立ち向かっているように見えたのであって、屈服してはいない。drift and surrenderはもちろん不可算名詞。”状況がわかっていない”というのは、これがチャーチルのイーデンに対する賛辞であるのに、「屈服した」ととらえていること。意味がまったく違ってくる。だいいち、この訳では若者が「誤算と弱気」を起こしたように読める。さらにいえば、drift and surrenderとwrong measurements and feeble impulsesは並列であり、前者を後者が具体的に説明している。それすらわかっていない。これはこの本でも重要な一文なので、責任ある訳者なら、機会があれば訂正すべきだろう。この前のthe dark waters of despairも「水」と訳されているが、watersというように複数形にされた場合には、ただの「水」ではない。これも辞書をきちんと引いたほうがよろしかろう。
ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 (角川文庫)
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/03/24
- メディア: Kindle版
『悲しみの秘儀』若松英輔 [本・読書]
『アロの銃弾』『体制の犬たち』鳴海章 [本・読書]
「もっとも凶悪な獲物(ゲーム)。それが狙撃手(スナイパー)」という、ギャビン・ライアルの『もっとも危険なゲーム』をさせる惹句のとおり、この二冊は恐るべきスナイパーの攻防がひとつのテーマになっている。もうひとつの重要なテーマはAIだ。
このレディスナイパー前編『アロの銃弾』では、まず“瀬取り”によって北陸に上陸した北朝鮮工作員との銃撃戦がくりひろげられる。警視庁公安部局を支援する外部秘密組織のスナイパー赫音が阻止行動にあたるが、日本側にも大きな人的損耗が生じた。
いっぽうマニラでは、AIアプリAIKOを駆使するスナイパー亜呂は、たった独りでフィリピンの武装警官隊を阻止する。亜呂は所属する組織の命令で、赫音を斃すよう命じられた。両者は激突する運命にあった。だが、狩人【ハンター】が獲物【ゲーム】になる場合もあるのが、スナイパーの世界なのだ。後編『体制の犬たち』では、おそるべきスナイパーの最終ターゲットをめぐって、双方が暗闘と激闘を展開する。非対象戦の例に漏れず、攻撃する側が圧倒的に有利ななかで、日本側はモンスタースナイパーを阻止できるのか?
学習能力を高めたAIは、自動運転車を暴走させることもできる。そうなると、アナログな装備のほうが、AIの攻撃を防御するのに適しているかもしれない……。
こういったテロとの戦争は、現実に水面下で開始されているのではないか、と思わせる迫真の描写。現代を生きるものは、ここには書き切れないほどの情報が詰め込まれているこの二冊に、目を通すべきだろう。
折しもSFの新刊『ウォーシップ・ガールズ』が届いた。こちらは「ミサイルの姿をした十四歳の少女(AI)」が活躍するようだ。「ぼく」という一人称は、レディスナイパーの登場人物とおなじ。ちょっと萌える(?)かも。
このレディスナイパー前編『アロの銃弾』では、まず“瀬取り”によって北陸に上陸した北朝鮮工作員との銃撃戦がくりひろげられる。警視庁公安部局を支援する外部秘密組織のスナイパー赫音が阻止行動にあたるが、日本側にも大きな人的損耗が生じた。
いっぽうマニラでは、AIアプリAIKOを駆使するスナイパー亜呂は、たった独りでフィリピンの武装警官隊を阻止する。亜呂は所属する組織の命令で、赫音を斃すよう命じられた。両者は激突する運命にあった。だが、狩人【ハンター】が獲物【ゲーム】になる場合もあるのが、スナイパーの世界なのだ。後編『体制の犬たち』では、おそるべきスナイパーの最終ターゲットをめぐって、双方が暗闘と激闘を展開する。非対象戦の例に漏れず、攻撃する側が圧倒的に有利ななかで、日本側はモンスタースナイパーを阻止できるのか?
学習能力を高めたAIは、自動運転車を暴走させることもできる。そうなると、アナログな装備のほうが、AIの攻撃を防御するのに適しているかもしれない……。
こういったテロとの戦争は、現実に水面下で開始されているのではないか、と思わせる迫真の描写。現代を生きるものは、ここには書き切れないほどの情報が詰め込まれているこの二冊に、目を通すべきだろう。
折しもSFの新刊『ウォーシップ・ガールズ』が届いた。こちらは「ミサイルの姿をした十四歳の少女(AI)」が活躍するようだ。「ぼく」という一人称は、レディスナイパーの登場人物とおなじ。ちょっと萌える(?)かも。