SSブログ

新・翻訳アップグレード教室(7) [翻訳]

『商品名辞典』ができてから、固有名詞の調べものはずいぶん楽になった。おまけに最近はインターネットという道具もある。Googleで検索すれば、たいがいのことはわかる。念を入れて調べれば、恥ずかしい誤訳は防げるはずだ。
 先日ある翻訳書で、「オランダ級潜水艦」と訳されているのを見つけた。原文はHollandにちがいない。ホランドといえば潜水艇の考案者として有名な人物だ。だいいちオランダの公式名称はNetherlandsだから、Hollandを「オランダ」としてしまうのは、いくらそういう意味もあるとはいえ、いささか恥ずかしい。Googleで調べればすぐにわかったはずだ。
 これはちょっと専門的になるが、別の本ではZSU-23/4自走高射機関砲を「高射砲」とする誤訳も見かけた。これも手もとに資料がなくても、インターネットで調べればすぐにわかることだ。まず、「砲」というのはふつう口径37ミリを超えるものを指す。16~37ミリが機関砲というのが、米軍の基準になっている(旧日本陸軍では20ミリ以上が機関砲)。もっと口径が小さいものは機関銃と呼ばれる。ただし、時代を遡ると、37ミリの歩兵砲もある。
 それはそれとして、海軍では艦載砲熕兵器の14.5ミリ、20ミリ、37ミリ、40ミリがすべて機銃と呼ばれるからややこしい。
 ZSU-23はその名のとおり23ミリだから機関砲だ。4は銃身が四つある「四連装」を意味する。ZSUのSはロシア語では「自走」のことで、つまり戦車のような形をしていて、自力で移動できるタイプのものを表わす。牽引されるタイプはSがなくZU-23高射機関砲と呼ばれる。
 旧ソ連軍の兵器で「高射砲」といえばZSU‐57/2が典型だろう。自走式・口径57ミリ・2連装であることが、この名称からすぐにわかる。
 原文がAAA(Anti Aircraft Gun)で、だから「高射砲」と訳したのだろうが、横着してちょっとした調べ物を怠るとこういう結果を招く。

英和商品名辞典

英和商品名辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 1990/08
  • メディア: 単行本


nice!(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

新・翻訳アップグレード教室(1) [翻訳]

☆翻訳という作業は、ともすれば原文に「ひっぱられる」傾向がある。そこをきちんとした日本語に「引き戻す」ように心がけなければいけない。いくつか簡単な例をあげよう。
 A ペンが五本、机の上にならべられていた――「上に」は不要だし、日本語ではこういう受動態は不自然。「ペンが五本ならべて机に置いてあった」が流れのいい自然な訳だろう。
 B footprints in the snow 雪の中の足跡――ではまちがい。足跡は雪にめり込んでいるからinが使われるだけだ。「雪の上の足跡」が正しい。おなじくdead in the waterも「水中であがきがとれない」のではなく「水(の上)に浮かんだまま動けなくなっている」状態のこと。ちなみに前置詞は訳さないほうがいい場合が多い(「ベッドの上に寝ている」とはいわないでしょう?)。
☆つぎはちょっと高レベルになるが、英語のSVOをそのまま日本語に置き換えるとおかしくなってしまう例。
 C 彼は銃を撃った――He fired the gun.をそのままこう訳すと、日本語では「銃を狙って撃った」ことになるというねじれが生じる。「弓を射る」とはいわず、「矢を射る」というがごとし。「撃った」は、「彼は銃で~を撃った」という文で使うべきだ。この原文は訳しづらいが、「彼は発砲した」とすべきだろう。
 D 彼女はコンロに火をつけた――これも、コンロが燃えているのかと思ってしまう。「コンロに火を入れた」とすべきだろう。
☆英語の性格上どうしても使わなければならない言葉をそのまま訳すとおかしなことになる場合もある。
 E 彼女はワインのボトルを持ってきた――これではまるで「空き瓶」を持ってきたようだ。a bottle of wineは「数えることのできない」(銘柄として表現する場合などはべつ)ワインをbottleにこめることで「一本」「二本」と数えられるようにするための表現だから、日本語では「ワインを(一本)持ってきた」とすべきだ。あなたの彼女、キッチンから「ワインのボトル」を持ってきますか? 常識でわかることだろう。
☆長くなったので、きょうはこれまで。


nice!(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。