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〈もののけ姫〉 [映画]

 宮崎駿の映画は、それほどシリアスには見ていない。というのも、子供向けのようでいて、オトナが見ると凝ったところが目に付いてしまうからだ。それは欠点ではないが、「ちょっと待て」と考えてしまうので、あまり娯楽として楽しめなくなってしまうのが、オトナの悲しいさがだろう。
 たとえば〈紅の豚〉の飛行機の空の葬列は、ロアルド・ダールの短編からヒントを得たものだろう。ちなみに、ダールの短編集『飛行士たちの話』では、この短編の題を「彼らは年をとらない」としているが、アンソロジー『翼を愛した男たち』の拙訳では「彼らは永らえず」とした。
 前置きが長くなったが、この〈もののけ姫〉にも、わかる人にはわかるヒントが多数隠されている。中世の風景(人間も含めた)を見たくて見たのだが、たたら場で「てっぽう」を製造しているのは、ハンセン氏病に冒されたひとびとである。そのてっぽうを撃つ集団は、柿色の衣を着て、顔を隠している。これは非人であるだろう。犬(おおかみ)や猪が、森の神を象徴しているのは、いうまでもない。もののけ姫は森であり、たたら場は森を侵す文明だから、この二者は対立しているのだが、そこに第三勢力が登場してはじめて、両者は共存しなければならないことを悟る。
 いま、環境問題という重いテーマの本を訳しているのだが、ちょっとした息抜きになるとともに、深く考えさせられる作品だった。なお、中世の風景、河原のひとびとについてのビジュアルな資料としては、司修のこの絵本がすばらしい。いわば現代の絵巻物であろうか。つくづく眺めていたい本である。
 こうしたまつろわぬ民については、いずれべつに項目を立てて書こう。

もののけ姫

もののけ姫

  • 出版社/メーカー: ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
  • メディア: DVD



フレデリック・フォーサイス 翼を愛した男たち

フレデリック・フォーサイス 翼を愛した男たち

  • 作者: フレデリック フォーサイス
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 1997/05
  • メディア: 単行本



河原にできた中世の町―へんれきする人びとの集まるところ (歴史を旅する絵本)

河原にできた中世の町―へんれきする人びとの集まるところ (歴史を旅する絵本)

  • 作者: 網野 善彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1988/09
  • メディア: -



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