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誤訳、しかも状況がまったくわかっていない例 [本・読書]

資料に買った本に目を通していたのだが、ちょっとあきれるような訳にぶつかった。
「長く憂鬱な潮の流れにあらがって立っていた強靭な若者が、誤算と弱気のせいで屈服する姿が目に浮かぶ」原文は、"There seemed one strong young figure standing up against long, dismal, drawling tides of drift and surrender, of wrong measurements and feeble impulses."いつでも肝心なのは主語と動詞。それはseemedしかない。drift and surrenderとwrong measurements and feeble impulsesの引き潮に敢然と立ち向かっているように見えたのであって、屈服してはいない。drift and surrenderはもちろん不可算名詞。”状況がわかっていない”というのは、これがチャーチルのイーデンに対する賛辞であるのに、「屈服した」ととらえていること。意味がまったく違ってくる。だいいち、この訳では若者が「誤算と弱気」を起こしたように読める。さらにいえば、drift and surrenderとwrong measurements and feeble impulsesは並列であり、前者を後者が具体的に説明している。それすらわかっていない。これはこの本でも重要な一文なので、責任ある訳者なら、機会があれば訂正すべきだろう。この前のthe dark waters of despairも「水」と訳されているが、watersというように複数形にされた場合には、ただの「水」ではない。これも辞書をきちんと引いたほうがよろしかろう。

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 (角川文庫)

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/03/24
  • メディア: Kindle版



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