ことばの美学57 第二次世界大戦中の英米海軍艦艇 [雑記]
なにかのついでに買っておいた本が役に立つ、ということがままある。ネットであらゆる情報が集められるというのは、たいへんな思いちがいだ。紙の本はいざというときに、どれだけ役に立つかわからない。いまちょうど第二次世界大戦中の兵器にかかわるノンフィクションをやっているのだが、この時代、さまざまな艦種が一時的に登場していて、ひとつ訳語に苦慮したものがあった。sloopというのはふつう帆船なのだが、第二次世界大戦中、船団護衛のために対潜艦として用いられた艦種も、そう呼ばれていた。米海軍沿岸警備隊の監視艦(cutter)などが転用されることもあったようだ。この艦種について、『海軍要覧 昭和十九年版』(海軍有終会編)は、「護送艦」としている。ちなみに、「護送艦」(sloop)は「護衛駆逐艦」(frigate)と「駆潜特務艇」(corvette)の中間の大きさで、英海軍のブラック・スワン級は排水量一二五〇トンである。この時代、フリゲートもコルヴェットも、現在のものとは思想も大きさも異なる(ちなみに「フリゲート艦」「コルヴェット艦」という表記は誤り。ヨットを「ヨット船」とはいわないのとおなじ)。フリゲートは、現在は広義の言葉でかなり一般的に使われるが、第二次世界大戦中は輸送船団護衛のための対潜艦で、たとえば『世界の艦船 第二次世界大戦のアメリカ軍艦』(海人社)でも「護衛駆逐艦」としている。第二次世界大戦中の英海軍のフラワー級コルヴェット(可愛らしい花の名がつけられた)は、対潜に特化した急造の駆潜艇で、捕鯨のキャチャー・ボートの設計がもとになっている。じっさい、戦後にキャチャー・ボートとして使われたものもある。こういった船のうんちくは、The Oxford Companion to Ships and The Seaに詳しい。
The Oxford Companion to Ships And the Sea (Oxford Paperback Reference)
- 作者:
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (T)
- 発売日: 2006/10/23
- メディア: ペーパーバック