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ことばの美学50 危うい「紋切り型」の言葉 [雑記]

日経夕刊(7月11日)に、作家の阿部和重氏が、そう題したインタビューでいろいろと述べている。こういう記事をまとめるのは難しく、またバイアスがかかるといけないので、あまり書けないが、おおいに共感した。最後のほうの一部を引用しよう。「文学に必要なのは批評性だ。どんな状況でも絶えず生み出される無責任な言葉に対し、それは違うという声を発しなければならない。文学は紋切り型をずらしたり組み立てたりすることで、その影響力を遮断できる……」
翻訳者も、その仕事において、これを銘記しなければならない。なぜならホンヤクの場合、「紋切り型」とは「英和辞典の語義として真っ先に書かれているコトバ」であり、そこからどう工夫するかが、重要な作業であるからだ。ecnomyは「経済」だけれど、「景気」と訳したほうがいい場合があるだろう。economicは「経済的」だけれど、「採算がとれる」「利益が出る」と訳したほうがいい場合があるだろう。(むろん、すぐれた英和辞典にはこういうコトバもちゃんと載っているが、「紋切り型訳者」はけっして辞書を念入りにひかない。)I'm glad...は「うれしい」ではなく「ほっとした」のほうが適切な場合が多々あるだろう。
だから、たまに会っても紋切り型の言葉しか出てこない紋切り型訳者の訳は危ぶまれるのである。こいつ、cornyだねえ、と肚で思いつつ。

幼少の帝国: 成熟を拒否する日本人

幼少の帝国: 成熟を拒否する日本人

  • 作者: 阿部 和重
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/05/22
  • メディア: 単行本



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