『失われた地平線』ジェイムズ・ヒルトン [本・読書]
池央耿さんの新訳とあれば、ぜひ読まなければなりませぬ。いま再読すると、大戦間の厭戦気分が描かれていることがよくわかる。平和主義というようなものではないが、これはヒルトンのべつの作品『私たちは孤独ではない』にも感じられる。そして「中庸」――中庸と中国を結びつけるのは、欧米ではよくある錯覚のような気もするが、スタインベックの『エデンの東』にも、おなじような流れが見られる。しかし、大戦間の英米では受け入れられにくい哲学であったかもしれない。それだけに、ストレートにはこの気分は描かれていない。レマルクの一連の作品とおなじで、風になぶられる木の葉のような個人を描くことで、戦いに倦んだ心をあらわそうとしている。
私たちは孤独ではない (1954年) (Hayakawa pocket books)
- 作者: ジェイムズ・ヒルトン
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1954
- メディア: 新書