『冬の灯台が語るとき』ヨハン・テオリン [本・読書]
☆をいっぱいあげたい。前作にも増して、しっとりとしたいい作品になっている。特筆すべきなのは、近しいひとを亡くした悲しみが、ひしひしと伝わってくることだ。ミステリでは、ともすれば殺人もひとつの小さな出来事のように描かれてしまうが、この本では、静かな哀悼の気持ちが、ことばや態度のはしばしから、しみじみと感じられる。それに、暴力的な描写が多少あっても、アメリカの一部の小説のような残虐さはない。カタルシスもある。これが、マルティン・ベックのような息の長いシリーズになるといいと思う。訳者には、ぜひそのうちスウェーデン語とも対照してもらいたいものだ(ふと不思議に思った個所だけでもいいから)。ついでながら、北ヨーロッパがらみで『粛清』も読もうとしたが、どうも小生の手には負えなかった。原作者や訳者のせいではなく、こちらの資質の問題だろう。エストニアはフィンランドの北にはないにせよ。