『オバマの戦争』ボブ・ウッドワード [新刊!]
ウサマ・ビンラディンの発見と殺害の裏には、オバマ政権の地道な活動があった。大統領に就任したオバマは、アフガニスタンをことの中心に戻し、パキスタンと関連させた戦略を進めて、包囲網をせばめていった。今回の強襲作戦には、むろんパキスタン政府への根回しがあった。そういった軍事――「オバマの戦争」――だけではなく、本書にはオバマ政権を理解する鍵を握る情報がこめられている。オバマの理知的な手法を理解しておらず、失敗を重ねている日本政府上層部は多い。ブッシュ政権のアメリカとはちがうアメリカがここにある。アメリカは、大統領によって豹変する国なのである。それにしても、インタビューの最後にオバマがウッドワードをからう場面はおもしろい。オバマが「わたしの情報源よりもすごい情報源があるみたいだな」と皮肉り、「国家情報長官になろうと思ったことは? それともCIAか?」とたずねる。ウッドワードは笑みで応じるが、ウォーターゲート事件を暴露したときからずっと、ウッドワードには情報機関の影がある。海軍士官のころは、国防総省で情報関係の仕事にたずさわっていたし、《ワシントン・ポスト》の上司は元CIA局員だった。『ディープ・スロート』でウッドワードは、その後重要な情報提供者になるFBI副長官とホワイトハウスで「偶然に」出会ったといっている……だが、真実はわからない。『ディープ・スロート』は、その副長官が物故してから書かれた本である。とにかく、ウッドワードの本には、ジョン・ル・カレのスパイ小説を読むように行間を読む楽しさがある。むろん事実のみが描かれているが、人物関係も情報も錯綜し、けっして単純明快なノンフィクションではない。本書も、アメリカで出版されたときには、「こんな秘密をばらしていいのか」と、たいへんな物議をかもした。
大幅増刷決定!(6・30現在)
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