ことばの美学37 四方山話 [雑記]
ノンフィクションは事実との照合に気を遣うのだが、フィクションは事実の確認に気を遣う。アルゼンチンにアマゾン川が流れていたりすることもあれば、小隊を大尉が指揮していたりすることもあるからだ(そういう例がないとはいいきれないが)。兵器や銃器はいちいち確認する。いちばんややこしいのは位置関係や距離の確認で、だから地図と計算尺は欠かせない。タイムテーブルが狂っていることもある(編集者もチェックしてくれるが)。地名も確認しなければならない。現地音の表記というのも、日本語では気にするので〈アドミラル・ブラウン〉がアルゼンチンの軍艦であれば、〈アルミランテ・ブロウン〉にしなければならない。Virgilをヴァージルとしたら、そりゃだれのことかとギョエテがきき、となってしまふ。まあ、疎漏や瑕瑾に気をつけなければならないという、インガな商売であります。ひるがえっていれば、細部へのこだわりが好きだと楽しい仕事だとはいえる。自分で重箱の隅をつついているわけだ。ひとの重箱の底をつつくのは嫌だから、ホンヤクみすてりはよっぽどのことがない限り、読まないというわけ(笑)。ゲラを読んで飽きなかったこの本は、そんな意味でもよくできている。団茶さんを買うなら、こっちを買いなさい。ずっと面白いから。