『古楽器』よ、さらば! 鈴木秀美 [ギター・音楽]
渋谷の仏蘭西料理店シノワで、サロン・コンサートを聴いた。鈴木秀美氏がガット弦のチェロでバッハの無伴奏チェロ組曲(6番のうち2番)を奏でる。それをシャンパンを飲みながら聴き、そのあとが遅めのランチという趣向の贅沢なコンサートだ。そこで鈴木氏が語ったことが、この本にも書かれている。そのひとつは、なにも家屋敷を売ってストラディバリを買う必要はないということである。氏のチェロはオランダの名工が1994年に製作したもので、バロック時代の楽器をもとに作りつつ、オランダらしい特徴をくわえている。バロックの時代には、ストラディバリは「古楽器」ではなかったわけで、若い音がしたはずだ。それを弾きこなしていい音にする――そういう考え方が根底にある。前にフェンダーのギターを写真付きで紹介した。むろんクラシックの楽器とはレベルが違うが、僕もおなじ考え方で、本物のヴィンテージのフェンダー・ギターを買おうとは思わない(どうせ高くて買えないけど)。現在のカスタムショップのヴィンテージ・モデルを(しかも中古で)買って、自分なりの手をくわえるのがいいと考えている。本物のヴィンテージは電気系統もおかしくなっているし、フレットも磨り減っている(あるいはどこかで打ち換えてある)。そのままではどうせ実用には耐えない。コレクターがうちで弾くだけならいいが、ライブにはつかいづらい。
話がそれた――ガット弦で弾くバッハは、穏やかで耳に快く、すばらしかった。それを2メートルと離れていないところから聴けたのは、至福のひとときであった。
話がそれた――ガット弦で弾くバッハは、穏やかで耳に快く、すばらしかった。それを2メートルと離れていないところから聴けたのは、至福のひとときであった。