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『怒りの葡萄』を訳す、その5 [雑記]

the team and the wagon「馬二頭と馬車」……前にも出てきたが、the teamは対になった馬のことだ。
the government of families「家族のまつりごと」……一家を「治める」ということだろう。家長という概念には、いくぶん宗教的な響きがあるように思う。
singletree「衡」……横木のことであるが、「均衡」や「平衡」というように、秤の横竿も指す。
ridge pole「棟木」
blocked(コイルばねが縮み過ぎないようにする部品をかますこと)
(第11章)
brown owl「モリフクロウ」……形容詞がついた名詞は要注意だ。
(第12章)
国道66号線のルートについて、著者は誤解を招く書きかたをしている。ルート66はミシシッピ川を起点としてはいないので、64号線との混同。どの訳書もなぜかこれを指摘していない。「マザー・ロード」という言葉を生んだこの作品について、いささか不注意というしかない。
(第15章)
…heavy with silver and with greasy bills「銀貨や脂じみた紙幣がずっしりとはいっていた」……誤解してはならないが、この時代は10セントも銀貨だった。それを見逃してはならない。そうでないと、この人物がたいそうなお金持ちに思えてしまう。また、この道端の食堂にはnickel phonographがある。要はジュークボックスなのだが、一般にそう呼ばれるようになるのは後世――1940年前後なので、ここでは「五セント蓄音器」とした。“Made in U.S.A”(Phil Patton)
(第17章)
boundary「戦闘地境」……この章では、渡りびとの群れを一種の軍隊になぞらえているので、この言葉を使った。むろん、先住民との争いも、作者の念頭にあっただろう。
(第18章)
with few points and rays to them「芒も輻もほとんどない、射抜くような鋭い星々」……「六芒星」というが如く。
(第20章)
float「退去命令」……“Dictionary of American Slang”(2nd Edition)。新しい版にはこの語義は載っていない。
heeled slippers「ハイヒール靴」……slippersは「つっかけ」ではなく、紐で締めずにすっとはける婦人靴のこと。「スリッパ」「サンダル」ではない。シンデレラがはいていたのもこのたぐい。踵のないものはmulesという。
(以降、まとめて)
sleeve protector「腕抜き」
tortoise-shell cat「サビ猫」
jerk「細切れの短い線路」……“Dictionary of American Slang”(2nd Edition)など。
yellow cat「茶トラ」……猫の毛の模様については、多々サイトがある。
☆すこし忙しくなってきたので、最後は駆け足になったが、骨子はおわかりいただけたと思う。長い作品では、細かい部分が不正確になりがちだが、文章の解釈はともかく、名詞くらいはきちんと調べて訳したいと思う。それに、もっと言葉にこだわりたい。たとえば、この小説に登場するのはimmigrant「移住者」ではなく、住むところも定まらないmigrant「渡り鳥=季節労働者」なのだ。スタインベックもmigrantという言葉を使っている。だから、訳者は「渡りびと」と訳した。
☆前訳はいずれも、モノに対する注意がすこし足りないところが散見する。kettleについては最初に触れた。cornbreadは英和辞典ではたしかに「トウモロコシパン」だが、bread=パンではなく、焼いたものをひろく指す。「お焼き」もbreadといえるかもしれない。cornbreadはフライパンいっぱいに生地を入れて焼き、材料は多少ちがうが、どちらかというとパンケーキみたいな感じだ。『アメリカ南部の家庭料理』(アンダーソン夏代著・アノニマ・スタジオ)の写真を見ればたちどころにわかる。アメリカの食については、『アメリカは食べる』(東理夫著・作品社)も、おおいに参考になるだろう。
☆ホンヤクはもともと異国の文化を伝えるという意味もあるのだから、「衣・食・住」にはことに留意しなければならない。言葉の解釈、訳しかたも重要だが、訳者も読者もモノにこだわってきたところに、翻訳小説のおもしろさがあった。ジェイムズ・ボンドのアタッシェ・ケースはかっこよかったし、マティーニへのこだわりも忘れられない。フィリップ・マーロウのように開店したばかりのバーで飲んでみたい。『怒りの葡萄』を読んで、ジョード一家のつましい食事をこしらえたくなった。豚肉の塩漬けはやったことがあるが、こんどはぜひ「コーンブレッド」を焼いてみたいと思っている。
☆いずれ続編を書くかもしれないが、まずはこれにて落着。


アメリカは食べる。――アメリカ食文化の謎をめぐる旅

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  • 作者: 東 理夫
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2015/08/29
  • メディア: 単行本



アメリカ南部の家庭料理

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  • 作者: アンダーソン 夏代
  • 出版社/メーカー: アノニマスタジオ
  • 発売日: 2011/12
  • メディア: 大型本



Made in USA: The Secret Histories of the Things that Made America

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  • 作者: Phil Patton
  • 出版社/メーカー: Penguin Books
  • 発売日: 1993/07/01
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