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『秀吉と利休』野上弥生子 [本・読書]

これは孫引きになるので出典はあえて書かないが、「なにを」書いているかよりも「いかに」書いている関心が傾く、つまり技術に感動する、ということがある。この本はむろん「書いてある」こともすばらしいのだが、こういう雅味のある文章を昨今読む機会がまれであることを悟り、愕然とした。とともに、おなじ主題を書いている最近のべつの作家の小説が、なぜつまらなかったかということにも思い当たった。利休というひとのありようの重要な部分は、まわりにどういう世界を築いたかということであり、それが克明に描かれていなかったら、テレビドラマの俳優を描写しているような浅薄なものになる。好評を得たその作品を読んでぼくは、なんでこんな嫌な男を主人公にするのか、と思ったが、それは作者の描き方ゆえだったのだろう。ところで、この『秀吉と利休』はむろん、両者の確執から利休の死に至る物語であるけれど、利休のありようが存分に描かれていることで、なにかそこに不朽のものが残されている。それはそうと、この文庫本は奥付からして1987年ごろに買ったものだが、そのときに一度読んでも、上のようなことも含めて、なにひとつ読んでいなかったことに気づいた。これだから本読みは一生やめられない。

秀吉と利休 (新潮文庫)

秀吉と利休 (新潮文庫)

  • 作者: 野上 弥生子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1969/09
  • メディア: 文庫



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