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『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン [本・読書]

一人称だから視点が明確なのはあたりまえだが、やはり人称代名詞をほとんど使用しない訳は心地よい。ベテラン翻訳家もみならうべきだろう。卑語も遠慮なく使っているのが心地よい。先に訳文の話をするのは、ニホンゴの小説であろうとホンヤク小説であろうと、文章が肌に合わないものを読むのは、人生の無駄遣いだと思っているからだ。まずそれがあり、そのあとに作品がある。そういう順で評価がなされるべきだが、世の中そう単純ではない。
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この作品は、「アラビアン・ナイト」よろしく、入れ子細工のようになっていて、それがひとつのカラクリ、楽しさでもある。それを抜いてしまうと、話はあんがい単純なのだが、こういう仕組みであれば、ある程度のどんでん返しは許されるだろう。最近佳作の多い北欧のミステリほどの味わいはないが(ナレーションがちょっと冗長なところがある)、ちょっと冒険的な(前に述べたようなことだ)ところがある訳がとても気に入った。あとで気がついたのだが、表紙には本文の書き出しの部分が載っている。一ページめの訳で、とても気に入った訳語があり、それがlingerなのか、それともべつの単語なのかと考えた。そのあとで表紙を見て、stayだとわかった。「書き出しが大切だ」ということが冒頭に書かれていることと考え合わせると、ここは訳者が心を砕いたのだとわかる。おなじ訳者のホンを探してみよう。

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

  • 作者: デイヴィッド・ゴードン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/03/10
  • メディア: 新書



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