『菜種晴れ』山本一力 [本・読書]
黄色はなぜかひとを幸せな気分にしてくれる。一面の菜の花、ワーズワースの詩のらっぱ水仙、オムレツ……。安房勝山の菜種農家の末娘ニ三は、見込まれて江戸の油問屋の跡取りとして養女になる。母親に仕込まれ、てんぷらを揚げるのが上手なニ三は、毅然としたふるまいで、節目ごとにおとずれる危難を乗り越えてゆく。大火、大地震など、幕末も近い江戸のひとびとは、さまざまな苦しみを味わっていた。江戸は何度も大火などの災害に見舞われ、そのたびに庶民の力で立ち直ってきた。施政者も長い展望で知恵を発揮していた。桜を植えて庶民の楽しみとしたのも、疫病後の厄除けのために大川の花火をはじめたのも、そうした賢者の知恵だった。江戸では施政者と庶民がチームを組んでいた。ニ三の成長物語を通じて、そういったこともそれとなく描かれている。江戸を知ることは、いまとても大切に思える。