『味覚極楽』 [本・読書]
だれかが書いていたが、下母澤寛の若いころには、それこそ見廻組の残党みたいな人間がいて、じかに話を聞くことができたという。これは筆者が記者時代に書いた食べ物の話が中心になっているが、そうしたこともうかがえる。傑作なのは増上寺大僧正の「冷や飯に沢庵」の話。昔の坊さんはほんとうになまぐさは食べなかった。「ねぎは淫心を誘発するので、むかしから嫌われている」そうだ。いまでも、禅寺によっては、酒を飲んだものやにんにくを食したものははいるべからずと書いてある。東京に「とうけい」とルビがふってあるのも江戸を感じさせる。