『フラット化する世界』 [新刊!]
この本は、ブロードバンドがなければとうてい訳せなかっただろう。それくらい最新の情報が詰まっている。ところで、6月25日のSunday Nikkei「この一冊」で、スタンフォード大学名誉シニアフェロー今井賢一氏が冒頭に、まず下巻から読まれることをお勧めしたいと書いておられるのは、けだし至言である。
というのも、われわれ庶民――日本人の大半を占めるミドルクラス――が生き延びる知恵が、ここに書かれているからである。第6章「無敵の民」の原語はダブルミーニングのUntouchableで、逐語訳すると差し障りがあるので、「無敵の民」としたが、これはなにもハイエンドの仕事に限ったことではない。作者は例として、スタジアムの飲み物の売り子の話を取りあげている。だれだって、いくら安くてうまくても、亭主とカミサンが口喧嘩をしている食堂よりは、明るくて愛想のいい食堂に行く。単純にいえばそんなことで、だれでも笑顔と機転があれば「無敵の民」になれるのである。
経済書というとむつかしく聞こえるが、この本にはそんな場面があちこちにある。アメリカ文化の根底にあるgoodwillを信じる作者の気持ちが伝わってくる。