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新・翻訳アップグレード教室(33) [翻訳]

 もうX十年も昔の話になるが、高校のリーダーの先生がおもしろい人で、ずいぶんいろいろなことを教わった。それがいまなお役立っている。
(1)probablyは、「たぶん」ではなく「十中八九」。
(2)wetは、「湿っている」ではなく「びちょびちょ」。
(3)the manは、「春木先生に内緒の代名詞」。
 まずは(1)から――
 蓋然性の高さはおおざっぱにいうと――
 definitely>probably>perhaps>maybe>possiblyの順になる。
 もうちょっと細かく区別するなら――
 definitely(確実に)>no doubt, doubtless(まちがいなく)>almost certainly(ほぼまちがいなく)>presumably(どうやら)>probably(十中八九)>hopefully(うまくすると)>perhaps, maybe(ひょっとすると)>possibly(ことによると)という順番である。ただし、訳語が文脈によって異なるのはいうまでもない。
 つぎは(2)だが、wetもまちがいやすい言葉だ。たとえば、道路がwetなときには、「濡れている」ではなく「水浸し」という訳語がふさわしい場合があると心得ておこう。ウェット・ティッシュなるものがあるが、あの状態はどちらかというとmoistであってwetではない。
 (3)の「春木先生」とはグラマー担当で、ホーチミン髭を生やし、肩をいつもいからせていた先生である。じつはいつもきこしめして授業をやっておられたそうだというのを、同窓会のときに担任の先生に聞いた。それはともかく、英文にはこうした「隠れた代名詞」が多く使われている。それをリーダーの先生は、「春木先生に内緒の代名詞」といういいまわして教えてくれたのだ。なぜなら、heやsheばかり使っていたのでは、だれがだれやらわからなくなるからだ。すなわち、the tall manといった表現をいちいち「背の高い男」と訳す必要はないし、かえってわかりづらくなる。その男がBobであるなら、おおかたの場合、単純に「ボブ」とすればいい。むろん、前後関係や文脈、パラグラフにおけるその「代名詞」の位置によって、あんばいしなければならない。
 ちなみに、春木先生のグラマーで使っていた辞書はホンビーの小さな「新英英大辞典」では、wetの語義はcovered or soaked with water or some other liquid.となっている。「濡れた」がまちがいだというのではない。ただ、どういう場合にでもwet=「濡れた」でとどまってしまうのは、自分の「日本語変換辞書」の語彙が乏しいのを暴露するようなものではないか。wetは隠れた副詞を含んでいるから、「(汗で)びっしょりになる」「(涙で)しとどに濡れる」と訳してよい言葉なのだ。

新英英大辞典

新英英大辞典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 開拓社
  • 発売日: 1973
  • メディア: 単行本


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