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新・翻訳アップグレード教室(32) [翻訳]

 前に取りあげた『英単語のあぶない常識』に「claimはクレームか」という項目があって、こんなことをまちがえるひとがいるものかと思ったが、先日、「タンカー火災をしのぐクレームが保険会社に殺到する」という趣旨の訳文を見つけて唖然とした(そのまま引用すると訳者がわかるおそれがあるので変えた)。もちろんこのclaimは保険金請求のことだ。英語のclaimにクレーム(苦情)の意味はない。
 この本には、「時速XXノット」という表現もあちこちにあった。ノットは時速XX海里のことだから、むろん「時速」はつかない。
 ついでながら、原書でmileとされていても、場所が海や空であるなら、いわゆすstatute mile「マイル」ではなく、nautical mile「海里」である可能性が高い。英米はもとより、日本の海や空の現場でも、わざわざ「海里」「ノーチカル・マイル」とはいわず、ただ「マイル」という場合がほとんどだ。「海里」は「マイル」とはちがい、地球を物差しにした単位で、航法にはもっぱらそれが使われているからだ。
 ごくおおざっぱな話をしよう。地図があれば見てほしい。三宅島は北緯34度のやや北、房総半島の館山は北緯35度あたりにあるのがわかる。緯度一度の距離が60海里に当たるから、この2点の距離は60海里前後になる。仮に平均速力10ノット(つまり時速10海里)で航海するとすると、三宅島から館山まで約6時間で行けるわけだ。このノットという単位は、飛行機の速度にも用いられる。
 逆にいえば、海や空ではstature mileは(地上の距離関係で用いられるのでないかぎり)、単位として重要な意味を持たない。だから、舞台が船や飛行機であるなら、「マイル」といえばまず「海里」だと判断しなければならない。
 メートルもまた本来は地球を物差しにした単位である。現在はもっと精密なほう法により計測されているが、当初は子午線の北極から赤道までの1000万分の1とされていた。
 この間の緯度は90度、これに60をかけた5400海里が、北極から赤道までの距離になる。
 1000万÷5400=約1852 つまり1海里は約1852メートルだとわかる。
 くりかえすが、空海軍パイロットや艦艇に乗り組む海軍士官がmileといったら、それはnautical mileのことである。「マイル」と表記してもよいかもしれないが、「海里」だということは肝に銘じておかなければならない。そうでないと、位置関係や距離の面で食いちがいが生じる。
     *     *
 帰省シーズンで車に乗ることも多いだろうから、ついでに便利な頭のなかの「タキメーター」の話をしよう。クロノグラフを持っていれば、リング状のタキメーターがついている場合があるから見てほしい。
 これは速度と距離の計算には、非常に便利な「計算尺」だ。
 まず道路の距離標識に注目する。1km行くのに1分だと、時速60km。30秒だと時速120km。つまり……。
 時速60kmで安定して走ると、当然ながら60km行くのに1時間。では時速120kmでは――所要時間は半分の30分になる――。
 おおざっぱにいうと、自動車で走っているときのタキメーターの計算式は、このように60kmと60分のような6の倍数を基本とするといい。時速60kmで1分間にすすめるのは1km、速度が1.5倍の時速90kmなら、1.5km行ける。出口まであと15kmであれば10分で出られる、とわかる。時速100kmなら、10分弱、とおおざっぱに考えよう。
 頭の体操をすると眠くなる、というひとは計算をやめましょうね。


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