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新・翻訳アップグレード教室(23) [翻訳]

 つづいて否定と肯定について2話。
 中学一年のとき、『マイ・フェア・レディ』をみゆき座で見て(オードリー・ヘップバーンのファンだったのだ)、サントラ盤のコンパクトLP(四曲入りの17センチLPレコード)を買った。ここで非常に難しい英語の表現にぶつかる――I could have danced all night.――曲名は「踊り明かそう」となっている。歌詞・対訳付きなので、これが「一晩中踊っていられたらどんなにいいかしら」という意味だとわかったが、とうてい中学生の手に負える英語ではない。
 こういうcouldやwouldを使う表現は、得てして誤解しやすい。例を挙げよう
 まず、It could have been worse.が使われる状況を考えてみよう。
 振り込め詐欺に遭った。しかし、不幸中の幸い、100万円要求されたのだが、5万円しかなく、それだけ振り込んで、あとは数日後にという話になったが、騙されたと気づいた。つまり、「それぐらいで済んでよかった」「まあマシだった」という文脈で使う。
 逆にこの否定形のIt couldn't have been worse.は「全財産取られちまったよ。もう最悪」という状況のときに使う。
 話が暗くなったから、プラスの表現もひとつ紹介しておこう。ただし、これは翻訳を20年やっていて、一度しか見たことがないから、古臭いか、あまり使われない表現なのかもしれない。
 Never better. 「よりよかったことなんか一度もない」ではないよ。(気分は、今夜は)「最高!」
* *
 似たような言葉なのに、誤解しやすいものもある。suspectとdoubtがそうだ。
「疑う」という語義がすぐに頭に浮かぶだろうが、ちょっと待った。
 suspectは、「あまりかんばしくないことである」が「そうではないかと思う」の意味。
 doubtは、そういうことは「ありえないように思う」の意味。
 つまり――。
 I suspect that he is a spy. 「あの男はスパイではないだろうか」
 I doubt that he is a spy. 「あの男がスパイだとは思えない」「スパイをやる男のようには思えない」「スパイだという話はちがうと思うな」
* *
 いずれも、頭が疲れていると逆に訳しかねない厄介な表現だ。ベテランの訳者がまちがえているのを見かけたこともある。


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