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新・翻訳アップグレード教室(5) [翻訳]

 前項のつづき。やはり思い込みに注意……。
 アメリカ国家の歌詞をおぼえているひとはめったにいないだろうが、And the rocket's red glare, the bombs bursting in air...という部分がある。もちろんこれが書かれた時代には、宇宙ロケットなどないから、これは狼煙のような合図に使う「打ち上げ花火」や「火矢」のたぐいのことだ。中国で「火箭」と呼ばれるものが13世紀に使われたという記録がある。これがrocketの嚆矢であろう。おなじように、missileという言葉も、元来は「飛び道具」のことだった。
 こういうふうに、その時代にはなかった物事をあるように錯覚する考証の不備にも、気をつけなければならない。
 例えば、メートル法が確立したのはフランス革命のころだから、それより何世紀も前の帆船の時代の小説を訳す際にメートルという単位を使うのはおかしい。水戸黄門が「助さん、米2キロ買ってきてくれ」というようなものだ(そんな買い物は頼まないだろうが)。
 これはあまり知られていないことだが、腕時計ができたのは大戦間で、もともとは軍隊用だった。懐中時計をポケットからいちいち出していたのでは不便だったからだ。しかし、ポケットに守られていない腕時計は水に弱かった。そこでロレックスが1926年にオイスターケースを考案した。1910年代には腕時計はかなり普及していたようだが、それでもwrist watchと断られていない場合には、懐中時計かもしれないと疑ってかかる必要がある。
 コンピュータという言葉も新しい。40年ぐらい前の海外テレビドラマでは「電子頭脳」「電子計算機」などといっていた。これは衒学的になりすぎるだろうが、〈コンバット〉ではヘルメットといわず、「鉄兜」といっていたように思う。
 本日はこれまで。


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