新・翻訳アップグレード教室(30) [翻訳]
読みたい本とはべつに、必要に迫られて翻訳書を読むことがあるが、どうにも稚拙な日本語にがっかりすることが多い。いや、日本語のうまいへたの問題ではなく、常識の問題だろう。
われわれがふつうの会話や文章で「木製のテーブル」「鉄製の扉」「ガラス製のコップ」という表現を使うことはほとんどない。「の」には「材料を表わす」意味が含まれているから、「木のテーブル」「鉄の扉」「ガラスのコップ」等々でじゅうぶんだ。それはそれとして、最近いちばん気になったのは「木製の建物」という表現だった。「木造」という言葉が、この訳者の頭にはないのだろうか?
編集の責任――という声もあるだろうが、編集者や校閲にこんな事柄まで指摘してもらうのを期待すべきではない。いくら些細とはいえ、これは指摘すれば訳者の「日本語の常識」が疑われかねない問題なのだ。だから、たいがいの場合、編集者は口を拭うだろう。まして、「木製の――」を平気で使うような訳者の訳文には似たような瑕瑾が多いはずだから、直しきれないという面もある。まして、訳文そのものの出来は編集者の責任ではない。
ただし、前にも書いたように、編集者に可能な限り指摘してもらえる関係を築くのが、訳者のつとめである。ひるがえって考えてみれば、「木製の建物」がそのまま残されたのは、そういう信頼関係がないからでもあろう。
「木製のテーブル」はまちがいとはいえないかもしれない。敷衍しているという声もある。しかし、前に書いた「ワインのボトル」とおなじように、日本語の常識からすれば、「お言葉ですが……」といいたくなるたぐいの訳語である。
新・翻訳アップグレード教室(29) [翻訳]
そもそも「翻訳アップグレード教室」の「オリジナル」は、月刊誌『翻訳の世界』1995年4月号からの連載にはじまる。毎月課題を出し、応募原稿の講評を中心に進めるというものだった。かなりの数の優秀な「生徒」が、ここをなんらかの足がかりに――あるいはひとつの踏み石に――して、デビューした。
この切抜きはいまでもおおむね残っている(他の連載等とまとめて『ミステリの翻訳をおぼえる本』に所収)のだが、ほぼおなじ時期に経済・経営などの分野の翻訳の泰斗山岡洋一氏が、同誌に連載していた「基本語翻訳辞典」には膝を打つことが多かった。
先日、ノンフィクション翻訳関係の集まりでお目にかかった際に、この話をすると、連載をまとめたものがちくま新書で出ているとのこと。さっそく購入した。連載の際にとりあげた言葉ではぶかれているものもあるようだが、その後のインターネットの発達により、コーパスを利用するなどの情報処理も格段に進歩したため、より研ぎ澄まされた英語勉強の参考書になっている。
内容はあえてここでは紹介しない。たった¥700プラス税で、これだけの知識が得られるのだから、即座に注文すべきである。
新・翻訳アップグレード教室(28) [翻訳]
『知って役立つキリスト教大研究』は、ほんとうに役に立つ。なんといってもイラストと索引(英語と日本語の両方)があるのがありがたい。たんなる面白本ではなく、たいへん良質な翻訳の資料だ。おおいに利用できるのは、著者の調査が細心かつ良心的だからだろう。
いろいろな国が舞台になっているオプ・センター・シリーズのような作品を訳すときには、地図や各国の事柄がわかる資料が欠かせない。地図は最大のものは『ベルテルスマン 世界地図帳』を使うが、地図もまた大は小を兼ねない。場所によっては『現代世界詳密地図』か『世界地図帳』のほうが役立つことがある。前者は中国の地名をアルファベットからひける索引があるのが便利。地図によって地名の日本語表記がまちまちなのも悩みの種だ。
各国資料には、ちょっと古いが、『データ・アトラス95-96』をよく使う。むろん統計データはもっと新しいものを確認する。この手の調べ物では『imidas』などを活用することも多い。
ビジュアルデータ・アトラス―絵で読む最新世界情勢 (’95-’96)
- 作者: オフィス宮崎
- 出版社/メーカー: 同朋舎出版
- 発売日: 1995/03
- メディア: 大型本
新・翻訳アップグレード教室(27) [翻訳]
ハイテク軍事スリラーは、細かな事実の確認が必要なので、なかなか手間がかかる。
例えば、原文ではパルヒム級「フリゲート」となっているが、じっさいはどうなのか? 『ジェーン年鑑』Fighting Shipsをあたると、「コルヴェット」となっている。事実に合わせ、訳文では「コルヴェット」としなければならない。
「イワン・ロゴフ級強襲揚陸艦のブリッジ(艦橋)から(前方を)見るとSAM(対空ミサイル)発射機が……」という表現があったので、じっさいの配置をたしかめると――SAM発射機は上部構造の艦尾寄りにある。ややこしいことだが、これも修正が必要になる。
BACホーク練習/攻撃機???――正しくはBAe。これは作者のちょっとした勘違いだろう。
まあ、こういう確認は、どういうジャンルでもやらなければならないことではあるのだが……。
オプ・センター・シリーズ次作予告 [翻訳]
シリーズ#9の Mission of Honor (2002) は、ボツワナが舞台だ。
ボツワナ共和国は、南アフリカ共和国のすぐ北にあり、面積は日本の約1.6倍、人口は165万人(2000年)。世界最大のダイヤモンド産出国だが、99年の調査によると、15~49歳のエイズ感染率は35.8%と、世界最悪である。
民兵集団が聖職者を誘拐、カトリック宣教師団をすべて撤退させろと要求するが、ヴァチカンはこれに応じない。オプ・センターは独自の調査を行ない、政府を崩壊させてダイヤモンド鉱山を乗っ取る外部勢力の陰謀が存在することを突き止める。
しかし、オプ・センター専属の特殊部隊であるストライカーは壊滅状態……この危機を、オプ・センターはいかなる手段で解決するのか……。
最新作は#12――早く追いつきたいものだ。
Tom Clancy's Op-Center: Mission of Honor (Tom Clancy's Op Center (Paperback))
- 作者: Jeff Rovin
- 出版社/メーカー: Berkley Pub Group (Mm)
- 発売日: 2002/06
- メディア: マスマーケット
新・翻訳アップグレード教室(26) [翻訳]
今回は、電脳辞書の弊害――大は小を兼ねない、という話。
DDWinという便利な電子辞書ツールがあって、翻訳者はたいがい使っている。『ランダムハウス英和辞典』と『リーダーズ英和辞典』のCD-ROM版をパソコンにインストールしてメインの辞書にする、というのが標準的な要領だろう。
ところが、大辞典というものは、小回りがきかない。つまり、改訂がなされるのに非常に時間がかかる。だから、この二冊のあとで出た中小の「紙の辞書」も併用しなければならない。
しかし、人間は得てして怠惰なものだから、ページをめくるという作業を怠りがちだ。そうすると、タイムリーな言葉がきちんと訳せないはめになる。
例を挙げよう。
incentiveの語義を『ランダムハウス』と『リーダーズ』からざっと拾うと(例文などは省略)……。
『ランダムハウス』――誘因、刺激、(増産のための)報奨金[物]、報奨旅行、コカイン。
『リーダーズ』――激励、刺激、誘因、動機、奨励金、報奨、発奮材料、励みとなるもの、《俗》コカイン。
2003年1月初版の『ウィズダム英和辞典』には、用例としてtax incentive「税制上の特例措置」とある。新聞の経済面をすこしでも読んでいる人間なら当然、incentiveが「刺激策」の意味で使われることが多いのを知っているはずだ。
つぎはcapabilityを見ていこう。
『ランダムハウス』――(…ができる)力、能力、才能、手腕、(物の)耐性、(…に対する)適応性、性能、(利用・発達の)可能性、(将来伸び得る)素質、将来性、潜在能力。
『リーダーズ』――能力、権限、才能、手腕、可能性、伸びる素質、将来性、性能、【電】可能出力。
『ウィズダム』には、以上のような語義にくわえ、項目を立てて――(国家の)戦闘能力、軍事力――とある。「中国の」capabilityというような文脈では、この訳語のほうが至当だろう。
さらにもうひとつ。love-festは、『リーダーズ』には「野合《利害が一致した対立党派どうしの協力》」とあるが、『ウィズダム』にあるように「(くだけて、おどけて)和気藹々とした状況」の意味で使われることも多い。
大辞典がよくないというのではない。電脳辞書の便利さはおおいに活用すべきだろう。しかし、アップデートが遅い(電脳ツールであるのに)という欠陥を知りながら使わなければならない。そこにある情報が最大で最良だとは努々思うことなかれ。
新・翻訳アップグレード教室(25) [翻訳]
予定を変更して、「敬語」の話をする。
日本語の敬語はたしかに難しい。しかし、煎じ詰めれば、相手を思いやる気持ちをどう表現するかが肝心なのだと思う。
例えば、小学生のよし子ちゃんがあしたは遠足で、弁当を持っていくことになっているとする。母親がよし子ちゃんに、「お弁当を作らなければいけないわね」といった場合、感じやすいよし子ちゃんは「お母さんは面倒で嫌だと思っている」と受け止めるかもしれない。「そうねえ。なにが食べたい?」ときけば、気遣いを察するだろう。これは敬語にまつわるエピソードとはいえないかもしれないが、たとえ相手が子供でも礼儀を守ることが大切だという点ではおなじだろう。
さて弁当をこしらえたとしよう。よし子ちゃんはタマネギが嫌いなので、ハンバーグもタマネギを入れずに人参を擂って入れるなどの工夫をしてこしらえた。お母さんは「あんたはタマネギが嫌いだから入れなかったわよ。気を遣ったんだから」という。しかし、「タマネギははいっていないのよ。食べてね」といい、「気を遣った」ことはいわないのが、ほんとうの気配りだろう。
奥床しい(奥床しかった)ひとびとが住む東洋の端の国では、狭いところにおおぜいが暮らしているから、こうした気配りが欠かせない。昨今、(相手が目下か目上には関係なく)礼儀を守ることを卑屈と見なす風潮が、政治家からひろまりつつあるようなのは、嘆かわしいことだ。
もうすぐ12月で忘年会シーズンだが、今年は大きなパーティがおなじ日に開催されることになってしまった。片方のパーティの案内状に、こんな文面があった。
* *
『XX月XX日(X)には、当XXXX忘年会のほかにも、XXXXの関係者の多く
が例年ご出席なさっているパーティーが開催される予定です。同日に両方へ参加なさりたいかたがたに配慮し、会場のXXXXのご協力を得まして、今年度のみの特例として、XXXX忘年会の閉会時刻を午後11時に変更することといたしました』
* *
賢明なかたはおわかりと思うが、これではせっかくの「配慮」が台無しだ。どうしてもっと素直にひらたいくだけた文章が書けないのかと思う。これでは物書きとして情けないではないか。
(1)「配慮し」は上から物をいう表現である。「ご配慮ありがとうございます」という使いかたはあるだろうし、「中韓の感情を配慮して」というような政治的表現も見かけるが、顔のある対等な相手に対してこういう表現はふつう使わない。
(2)配慮したことを相手にいうのは、押し付けがましく、失礼である。これは前述の例からもわかるだろう。「おなじ日にだぶってしまったからパーティの時間を延長する」という事実を述べるだけで、「気遣い」はじゅうぶんに読み取れる。タマネギを入れなかったお母さんとおなじで、そういう手配をしたこと自体が「気遣い」であるからだ。
(3)さらにいえば、「両方に参加なさりたいかたがたに配慮」するのであれば、だぶってしまいましたが来てくださいね、という招きの言葉をいい添えるのがふつうだろう。すると、この一文は「両方に参加なさりたいかたがた」に向けて書かれたものではないのかもしれない。相手はあくまで「自分たちのパーティの参加者」だ。つまり、「両方~かたがた」がいるからこういう「配慮」をしなければならなかった、と「参加者」に、弁解、愚痴をいっているようにも受け止められる。
察するに、当事者の「配慮」の対象は人間ではなく、同日にパーティがだぶったという事実であろう。ことによると参加者が減るかもしれないという懸念も透けて見える。
『お言葉ですが…』の高島俊男さんもおなじような考えで書いておられると解釈するが、なにも四角四面に、時と場合を考えて適切な言葉を使えというのではない。そんなことは不可能だし、言葉はもっと柔軟なものだ。肝心なのは相手に対する気持ち――思いやりだろう。
とにかく、コトバにかかわる仕事をしている人間が、日常、このような表現を平気で使うのは、コトバへの愛情が感じられない嘆かわしいことだと思う。くだんの文の趣意を、善意を押し付けないようにしながら、すべての当事者に向けて、もっと易しく、優しく書くのは、それほど難しいことではない。僕ならこう書く。
* *
『ゆくりなくも今年はもうひとつの大きな年末のパーティと日にちがおなじになってしまいました。そのため、ゆっくりお楽しみいただけるようにと、会場と交渉の末、時間を一時間延長いたしました。せっかくですので、移動と長時間の立食がたいへんとは存じますが、もうひとつのパーティに出席なさるかたがたもぜひお越しください』
* *
くりかえすが、言葉にかかわる仕事をしている人間は、ふだんから言葉にセンシティヴでなければならない。相手の言葉によく耳を傾け、自分の言葉に気をつける。活字を睨んで四六時中そんなことばかりやっているのが、この仕事である。
女艦長アマンダ・ギャレット・シリーズ(続報) [翻訳]
もうだいぶ先が見えてきた……。企業秘密に関わるので、日にちまでは申しあげられないが、できるだけお待たせしないで読者のかたがたにお届けしたいと思う。
こういった本は紙の資料も色々使うが、ネット検索もかなり役立つ。今回は下記のサイトがことに役立ったので、紹介してお礼にかえたいと思う。
☆特殊部隊データベース アジア・オセアニア
http://www5f.biglobe.ne.jp/~sbu/DATABASE-AjiaOceania.htm
『世界の特殊部隊』ヴィジュアル版(原書房)にもそこそこは載っているのだが、インドネシアの特殊部隊に関する記述で役立った。
☆近代世界艦船事典
http://hush.gooside.com/Text/Jiten-Sakuin.html#anchor26664
クラスや艦名の英語表記は「ジェーン年鑑」FIghting Shipsで確認できるが、日本語表記を知るのに役立った。
☆Military Lingo
http://www.vetfriends.com/Lingo/index.cfm?i=5&startNum=41
ほかでは見つけられない軍隊隠語がいくつか解明した。ちょっと使いづらいかもしれない。
☆Hyper Arms
http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/message00/ss001.htm
このサイトはご存じの方も多いだろう。信頼できる情報が多い。
☆軍事百科事典
http://www003.upp.so-net.ne.jp/Zbv/index.htm
発展途上のようだが、使いやすいし、面白い情報がある。
紙の資料では、ちょっと変わったところで、『日本陸海軍事典』を使うこともある。例えばheadquarterは「師団」「旅団」では「司令部」だが、それ以下の部隊では「本部」――といったことの確認に使う。『坂の上の雲』もときどきぱらぱらとめくってみる。「薙射」という言葉はこの本から仕入れた。
アメリカ海軍の細かな事柄――1MCは艦内音声通信網(MC)のなかで「戦闘部署」「総員」に対するものである――というようなことを調べるのには、Naval Institute PressのThe Bluejacket's Manualが役に立つ。書き込みをしているせいもあるが、なぜか新しい第22版(1998年)より、前の第21版(1978年)のほうが使いやすい。
ついでながら、アメリカ海軍の階級は☆ひとつがCommodore(現実には階級ではなく役職の面が強い)だったのが、Rear Admiral (Lower Half)に変更された。陸軍准将とおなじ位だが、☆ふたつがRear Admiral (Upper Half)なので、それぞれ少将(下級)、少将(上級)とすべきかもしれないと思っている。
新・翻訳アップグレード教室(24) [翻訳]
今回は訳語のヒントを拾う話。
翻訳という作業は、「ない袖は振られぬ」という一面がある。この慣用句は本来、「貸したくても金がないんだよ。おあいにくさま」という文脈で使うものだから、ちょっとずれているのは承知でいうが、いざというときのために、ふだんから言葉という銭を溜め込んでおかなければならない。
前に言及した日経版の「なるほど英語帳」もなかなか役に立つ。著作権にふれるので引用はできないが、きょう(11月5日)付けで、在英ジャーナリスト阿部菜穂子氏は、じっさいの事件にふれながら、make a stand「抵抗する」というイディオムを取り上げている。こういうふうにコンテキストがくわわると、言葉の意味はなおのこと理解しやすくなる。一読してほしい。
映画の字幕もなかなか秀逸なものがあって、メモをとることも多い。DVDで見ているならべつだが、ぱっと消えてしまうものなので、いつも手の届くところにメモ用紙と鉛筆を置いておかなければならない。このあいだも、アクション映画にImpressive! 「やるな」という字幕があった。小説ではもっと長い台詞になってしまうかもしれないが、これは使える! と思った。こういう台詞は、使えるシチュエーションが訪れるまで、だいじに巾着にしまっておかなければならない。
ここでたいせつなのは、両方ともメモや切抜きというアナログな作業によってためこむということだ。データベースという他者の脳みそ(電脳辞書もその一種)ではなく、自分の脳みそをレファレンスの糸口にして(つまりざっと記憶する)、くわしい内容はメモや切抜きを見ればよいようにしておくわけだ。
電脳辞書は便利ではあるが、弊害もある。それについては次回。
新・翻訳アップグレード教室(23) [翻訳]
つづいて否定と肯定について2話。
中学一年のとき、『マイ・フェア・レディ』をみゆき座で見て(オードリー・ヘップバーンのファンだったのだ)、サントラ盤のコンパクトLP(四曲入りの17センチLPレコード)を買った。ここで非常に難しい英語の表現にぶつかる――I could have danced all night.――曲名は「踊り明かそう」となっている。歌詞・対訳付きなので、これが「一晩中踊っていられたらどんなにいいかしら」という意味だとわかったが、とうてい中学生の手に負える英語ではない。
こういうcouldやwouldを使う表現は、得てして誤解しやすい。例を挙げよう
まず、It could have been worse.が使われる状況を考えてみよう。
振り込め詐欺に遭った。しかし、不幸中の幸い、100万円要求されたのだが、5万円しかなく、それだけ振り込んで、あとは数日後にという話になったが、騙されたと気づいた。つまり、「それぐらいで済んでよかった」「まあマシだった」という文脈で使う。
逆にこの否定形のIt couldn't have been worse.は「全財産取られちまったよ。もう最悪」という状況のときに使う。
話が暗くなったから、プラスの表現もひとつ紹介しておこう。ただし、これは翻訳を20年やっていて、一度しか見たことがないから、古臭いか、あまり使われない表現なのかもしれない。
Never better. 「よりよかったことなんか一度もない」ではないよ。(気分は、今夜は)「最高!」
* *
似たような言葉なのに、誤解しやすいものもある。suspectとdoubtがそうだ。
「疑う」という語義がすぐに頭に浮かぶだろうが、ちょっと待った。
suspectは、「あまりかんばしくないことである」が「そうではないかと思う」の意味。
doubtは、そういうことは「ありえないように思う」の意味。
つまり――。
I suspect that he is a spy. 「あの男はスパイではないだろうか」
I doubt that he is a spy. 「あの男がスパイだとは思えない」「スパイをやる男のようには思えない」「スパイだという話はちがうと思うな」
* *
いずれも、頭が疲れていると逆に訳しかねない厄介な表現だ。ベテランの訳者がまちがえているのを見かけたこともある。