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ことばの美学65 直してほしいことば [雑記]

1、旧来、「自動拳銃」ということばがよく使われていたのだが、「自動」とはフルオート、すなわち引き金を引きっぱなしにすれば連射できる機能のことだ、一部の拳銃には、たしかにそういう機能もあるが、ふつうは一発ずつ引き金を引くのだから、「半自動拳銃」すなわち「セミ・オートマティック・ピストル」が正しい。ライフルの世界では、すでにそう正しく呼ばれている。2、陸軍は「士官学校」、海軍は「兵学校」と訳さないと、まちがいであると指摘されることがあるが、これは旧日本軍の制度であり、米軍とはちがう。米軍は海軍もユニヴァーシティ(総合)なので、士官学校でよろしい。しかも「兵学校」と威張って指摘する向きはたいがい、1942年に「兵学校」が「機関学校」を合併したことを知らない。この時点で「兵学校」は、「兵科将校」のみならず「機関将校」も育成するわけになったのだから、「兵学校」という名称はいささか不正確になった。3、Detachmentを「分遣隊」と訳してあるのを散見するが、「分遣隊」とは警備のような静的任務につく部隊のことであり、独立して作戦を行なう派遣部隊は「支隊」と呼ばれる。4、「将校」と「士官」の区別だが、日本海軍では、兵学校や機関学校を出た正規の軍人を「将校」とした。だから、厳密にいえば、予備役「将校」というのはありえないわけだ。また、将校とは将(将軍)と校(佐官)であり、尉官は「士官」だとする分類もあった。時代によってことばは変わるが、なりたちを憶えておいて訳しわけてもらいたいものだ。
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ことばの美学64 イロの話 [雑記]

言葉が使われるうちに転じてべつの意味を持つようになるのは、よくあることだ。khakiというと、もとはカーキ色のことであり、カーキ色の軍服などのことだったが、いまではカーキ色とはかぎらないコットンパンツ、チノパンを指す。だから、brown khaki pantsもgreen khaki pantsもありうるわけで、それぞれ「茶色の綿パン」「グリーンの綿パン」のことだ。これがあんがい見逃されている。GAPのコマーシャルなどをよく見ていれば、わかるはずなのに……。おなじように、tanを「黄褐色」とする場合が多いが、そもそもそういう色の言葉はない、tanはトレンチコートの色、すなわちベージュのほうが近い。LLBeanなどのカタログが参考になるはずだよ。よく東南アジアの僧侶の衣を、サフラン色としているのを見かけるが、サフラン色はブルー系で、ありえない。欧米人はサフランライスの連想で、サフランイエローのことをいっているのだが、東洋人なら鬱金で染めた黄色であることを知るべきだろう。かようにイロの道にはご用心。
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ことばの美学63 連想ゲーム [雑記]

このあいだ読んだ本で、「アメリア」の彼氏が「ジーク」で、「こいつの名前は不似合い」とあり、訳注に「ジークはエゼキエルの愛称」云々とあったが、これがどうして不似合いなのかわからない。飛行機好きなら、アメリアとくれば女性飛行士アメリア・イアハート、ジークとくれば零戦を連想する。ジークは「東洋風のジャケットとバギーパンツ」を着ているから、なんとなくまちがった日本人のイメージのようでもある。そうすると、アメリアの彼氏が「零戦小僧」では似合わないというのが納得できる。まあ、これは妄想かもしれないが……。
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ことばの美学62 ボトル入れますか? [雑記]

「ワインのボトルを」という訳文が出てくると、またか、キホンができていないとがっかりして読む気を失う。a bottle of wineは「一本のワイン」、a glass of wineは「一杯のワイン」、これ常識。a can of beerは「ビールの缶」じゃなくて「缶ビール」、a pintは「ビール一杯」、これ常識。bottleもcupも主体は容器ではなく中身だから、訳さなくていい場合が多い。「テーブルのワインを持って、グラスに注いだ」という簡潔な文にすればいいのに、どうして「ボトル」を入れるのか? 貴女、カラオケスナックのママさん? ゴヤクに関する本を出している御大も、「空のワインボトル」と書いていた。「ワインの空瓶」というのがふつうの日本語でしょう。もしかして、英語は得意でも、日本語は苦手?
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ことばの美学61 アナロジー [雑記]

『ウィズダム英和辞典』のすぐれていることについては何度も書いてきた。《リーダーズ》や《ランダムハウス》に載っていないイディオムや語義、メモに付箋をつけてあるので、いずれまとめたいとは思っているのだが……(以下略)……。analogyもそのひとつ。『ウィズダム』には、あっさりと「たとえ」とある。手元の辞書を見てもらいたい。POD8thにも(これが近年の版ではすぐれていると思う)arguing or reasoning from parallel casesとある。「引き合いに出す」ということだろう。『ウィズダム』は第3版も買わないといけないのだが、そうするとメモをすべて書き写し、また付箋を貼らなければならない……(以下略)。

ウィズダム和英辞典 第2版

ウィズダム和英辞典 第2版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2012/11/07
  • メディア: 単行本



ウィズダム英和辞典 第3版

ウィズダム英和辞典 第3版

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 2012/11/07
  • メディア: 単行本



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ことばの美学60 紙の本にあたる [雑記]

最近は、Wikipediaすら見ずに訳す訳者もいるようだが、やはり便利なレファレンスだ。ただ、「日本語版」だけを参考にすると、たいへんなことになる。かならず英語版も参考にしなければならない。くわえて、「紙の本」で事実をさらに確認することも必要だ。今回、原書に軍人の階級が記載されていないことが多かったので、これをよくひいた。また、原文はGeneralやAdmiralだけのことも多いので、「その時点での階級」を書き加えなければならない。それにも役立った。Wikiの記載に多少ずれがあることも、それでわかった。オクスフォードのこのCompanionシリーズも、何冊か揃えてある。第二次世界大戦のさまざまな局面を知るのにたいへん役立つ。

The Harper Encyclopedia of Military Biography

The Harper Encyclopedia of Military Biography

  • 作者: Trevor N. Dupuy
  • 出版社/メーカー: Harpercollins
  • 発売日: 1992/06
  • メディア: ハードカバー



The Oxford Companion to the Second World War

The Oxford Companion to the Second World War

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt)
  • 発売日: 2000/03
  • メディア: ハードカバー



The Oxford Companion to World War II

The Oxford Companion to World War II

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (T)
  • 発売日: 2001/12
  • メディア: ペーパーバック



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ことばの美学59 自信たっぷりは危険 [雑記]

タマに翻訳本を読むと、やれやれと思うような文に出くわすことがある。「ドーベルマン一匹を連れ、自動拳銃と回転式連発拳銃とサブマシンガンをかかえ、杖をついてガザの町を歩きまわったものだ」――この人物は、手が何本あるんでしょうね。「協力関係は、美しいといえるほど完璧だった」――beautifullyの意味ぐらいわからないのかね。アラビア語も、わからないときには「自信たっぷりに間違える」ことがないようにきをつけよう。ミサイルの名称に「アルサフィール」(ヴィクトリー)とあったが、Al-zafar――アッザファル(勝利)のことだろう。西側で「ヴィクトリー」と呼んでいるのではないだろう。「アルカフィール」(コンケラー)はAl-kaahir――アルカーヒル(征服者)のことだろう。当てずっぽうで長音にするくらいなら、「アルザフィ(orファ)ル」、「アルカヒル」としておけばよいのだ。ビン・ラーディンが正解でも、ビン・ラディンならまずまずOKだ。ビン・ラディーンとしたらおかしいだろう。それとおなじことだ。こういうレベルの低い翻訳が多いから売れないのだ……とまではいわないが、もっとしっかりしてほしいね。
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ことばの美学58 継ぐもの継がぬもの [雑記]

翻訳をやっていて困るのは、先人の知恵が得られるいっぽうで、先人の過ちを正すのが難しいことだ。あまりひとのことはいえないのだが……。たとえば陸軍は「士官学校」、海軍は「兵学校」とすべしとよくいわれるが、アメリカでは精度がちがうから、どちらも「士官学校」でいいはずだ。さらにいえば、海軍兵学校は1942年に「兵科」と「機関科」の統合が成され、兵科一本になった。すこし意味合いがちがってきたわけだ。それから、よく「陸軍は将校」「海軍は士官」と訳せなどともいうが、これもまちがい。旧日本海軍では、「戦闘力の発揮に直接かかわる士官を「将校」と呼んでいだという。また、「将」は将官、「校」は佐官を示す字だから、下っ端少尉を「将校」と呼ぶのには、若干抵抗がある。Commandという部隊の単位は、従来、「軍団」などと訳されることが多かったが、軍団はCorpsであり、これもまちがい。現在では「集団」という訳がいちばん適切だろう。車のマスタングは「マスタング」がふつうになったが、P‐51のほうはあいかわらず「ムスタング」も多い。さてどうしたものか……。

日本陸海軍事典

日本陸海軍事典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 1997/07
  • メディア: 単行本



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ことばの美学57 第二次世界大戦中の英米海軍艦艇 [雑記]

なにかのついでに買っておいた本が役に立つ、ということがままある。ネットであらゆる情報が集められるというのは、たいへんな思いちがいだ。紙の本はいざというときに、どれだけ役に立つかわからない。いまちょうど第二次世界大戦中の兵器にかかわるノンフィクションをやっているのだが、この時代、さまざまな艦種が一時的に登場していて、ひとつ訳語に苦慮したものがあった。sloopというのはふつう帆船なのだが、第二次世界大戦中、船団護衛のために対潜艦として用いられた艦種も、そう呼ばれていた。米海軍沿岸警備隊の監視艦(cutter)などが転用されることもあったようだ。この艦種について、『海軍要覧 昭和十九年版』(海軍有終会編)は、「護送艦」としている。ちなみに、「護送艦」(sloop)は「護衛駆逐艦」(frigate)と「駆潜特務艇」(corvette)の中間の大きさで、英海軍のブラック・スワン級は排水量一二五〇トンである。この時代、フリゲートもコルヴェットも、現在のものとは思想も大きさも異なる(ちなみに「フリゲート艦」「コルヴェット艦」という表記は誤り。ヨットを「ヨット船」とはいわないのとおなじ)。フリゲートは、現在は広義の言葉でかなり一般的に使われるが、第二次世界大戦中は輸送船団護衛のための対潜艦で、たとえば『世界の艦船 第二次世界大戦のアメリカ軍艦』(海人社)でも「護衛駆逐艦」としている。第二次世界大戦中の英海軍のフラワー級コルヴェット(可愛らしい花の名がつけられた)は、対潜に特化した急造の駆潜艇で、捕鯨のキャチャー・ボートの設計がもとになっている。じっさい、戦後にキャチャー・ボートとして使われたものもある。こういった船のうんちくは、The Oxford Companion to Ships and The Seaに詳しい。

The Oxford Companion to Ships And the Sea (Oxford Paperback Reference)

The Oxford Companion to Ships And the Sea (Oxford Paperback Reference)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (T)
  • 発売日: 2006/10/23
  • メディア: ペーパーバック



海軍要覧〈昭和8,12年版〉 (1933年)

海軍要覧〈昭和8,12年版〉 (1933年)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 有終会
  • 発売日: 1933
  • メディア: -



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ことばの美学56 乱射? 自動小銃? [雑記]

アメリカでまた痛ましい事件が起きて、おおぜいの児童が射殺された。こういう事件が起きると、日本の新聞はかならず「乱射事件」という言葉を使う。だが《ニューヨーク・タイムズ》の見出しは「銃を持った男による 大量虐殺に国民は衝撃を受ける」(Gunman massacres)となっている。乱射というのは狙いをつけずに撃つことだが、記事によれば「男の狙いはぞっとするくらい精確で、ほとんどの被害者が何発も撃ち込まれて死んでいた」という。「乱射」では、まるで流れ弾丸に当たったようだ。犯人は大量虐殺を目的とし、狙いをつけて撃っていたのだから、ふつうの日本語にもっとふさわしい「狙い撃ち」「狙撃」という言葉がある。それに「自動小銃」とある新聞の朝刊囲み記事にあったが、「半自動小銃」(semiautomatic rifle)のまちがいた。犯人が持っていたのは、223口径(5.56ミリ)のブッシュマスター半自動小銃と、10ミリ口径のグロック・セミ・オートマティック・ピストル、9ミリ口径のSIGザウアー・セミ・オートマティック・ピストルなどだったという。アメリカでは、M16などの軍用自動小銃を半自動にグレードダウンして市販している。今回使われたブッシュマスターもそのスピンオフのひとつ。アメリカの規制では、自動小銃型は市販されない。マスコミにはこの程度の常識もないのだ。ジャーナリスト諸君、すこし勉強しなさい。



小林宏明のGUN講座―ミステリーが語る銃の世界

小林宏明のGUN講座―ミステリーが語る銃の世界

  • 作者: 小林 宏明
  • 出版社/メーカー: エクスナレッジ
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 単行本



小林宏明のGUN講座2―ミステリーから学ぶ銃のメカニズム

小林宏明のGUN講座2―ミステリーから学ぶ銃のメカニズム

  • 作者: 小林 宏明
  • 出版社/メーカー: エクスナレッジ
  • 発売日: 2006/07/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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