『失われた世界』アーサー・コナン・ドイル [新刊!]
光文社古典新訳シリーズは、訳注をページ脇につけられるので、おおいに助かった。編集や校閲も丁寧であり、ウクライナ語版も含めた註釈本や資料をかなり使ったので、まずは決定訳に近いものになったと思う。挿絵も入れ、詳細な解説と年譜もある、親切なつくりである。ぜひこの機会に読んでほしい。
『中国軍を駆逐せよ ゴースト・フリート出撃す』シンガー&コール [新刊!]
ふたりとも小説では新人だが、軍事の専門家であり、しかも人間が書けているので、すこぶる面白い。これは掘り出し物だった。近未来、中国の宇宙攻撃とサイバー攻撃から、米中戦争がはじまる。中国は「第三列島線」を主唱し、太平洋に押し出す。アメリカの兵器の多くは、マルウェアが仕込まれたマイクロチップを使っているため、手も足も出ない。ローテクで反撃せざるをえない。そういう米海軍の主力は、「幽霊艦隊」(ゴースト・フリート)として現役をしりぞいていたミサイル駆逐艦〈ズムウォルト〉。老朽化したF‐15戦闘機も、汚染されたチップが使われていなかったので決戦に挑む。さらに、宇宙やサイバー戦でも、アメリカの反撃が開始される。ハイテク軍事スリラーの枠を超えた、血沸き肉踊る海洋冒険小説だ。激戦のさなか、登場人物たちに近しいものの死に胸が痛む。訳していて、このジャンルの最高傑作「女王陛下のユリシーズ号」をちょっと思い出した。
中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(上) (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
- 作者: P.W.シンガー
- 出版社/メーカー: 二見書房
- 発売日: 2016/01/21
- メディア: 文庫
中国軍を駆逐せよ! ゴースト・フリート出撃す(下) (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
- 作者: P.W.シンガー
- 出版社/メーカー: 二見書房
- 発売日: 2016/01/21
- メディア: 文庫
『戦場の掟』ファイナル [新刊!]
『怒りの葡萄』ジョン・スタインベック [新刊!]
「怒りの葡萄」の見本ができた。発売は連休明け。なかなかいい装丁だ。既訳はいろいろあるが、すくなくとももっとも丁寧な仕事ができたのではないかと思う。これについては、いずれブログで書くつもりだが、だれもが冒頭のthe last rainsをただ「雨」と訳しているのには驚かされる。複数形の場合は、「大雨」「雨季」を意味する。本書では「最後のまとまった雨」と訳した。あとがきには、ウディ・ガスリーやマール・ハガード、ブルース・スプリングスティーンのことを書いた。いずれも本書と深いかかわりがある歌手だ。スプリングスティーンには、The Ghost of Tom Joadというアルバムがあり、本書にたいへん大きな影響を受けたと述べている。ウディは渡り労働者支援コンサートのためにニューヨーク滞在中に映画『怒りの葡萄』を見て、ストーリーをなぞる「トム・ジョード」という曲を書きあげた。マール・ハガードはまさに「オーキー」で、有蓋貨車の家で生まれた。装丁もなかなかいいし、書店でぜひご覧ください。
This Land Is Your Land by ウディ・ガスリー (2005-04-04)
- アーティスト:
- 出版社/メーカー: Falcon
- メディア: CD
ガイトナー回顧録 [新刊!]
日本人は「アメリカの仕組み」というものを、もっと知っていなければらないのではないか。情報も内向きなものばかり、ネットの政府批判もまったく内向きだ。ガイトナー元財務長官は、アメリカの閣僚にはめずらしく政治家的な色あいの薄いひとで、だからこそ金融危機を乗り越える改革を、合理的にやれたのだと思う。有能な管理が、対策をひとつひとつ積みねてきた、という感じだ。ひるがえると、日本の政界の停滞を嘆きたくなる。民間企業主導でいい結果が出ているものの、国家の大きな戦略が見えてこない……。ちょっとこれを読んで勉強してもらいましょう。「米国最大の危機を救った男」の物語は、かならず参考になるはずです。
『謀略のステルス艇を追撃せよ!』カッスラー&ダブラル [新刊!]
『探求――エネルギーの世紀』ダニエル・ヤーギン [新刊!]
待望の「普及版」! ヤーギンさんが、日本の読者向けに「序」を寄せてくれました。選挙にらみで政府はエネルギー・ミックスの方針すら決めていないが、この先、エネルギー問題は扱いによっては、日本の利益にも害にもなりうる。いまはさいわい原油価格が下落しているからいいが、日本のエネルギー輸入は28兆円で、国家予算の30%近い。これをどうにかしなければ、国の未来は危ういだろう。そういう意味でも、必読の書だといえる。初版の際、冒頭の部分、数字等を事実に即して訳すと、原文とちがうというおろかな指摘がなされたが、訳者と編集者の厳密な考証による是正である。ノンフィクションは事実と照らし合わせて訳すのが常道なのである。賢明な読者諸氏は、そのような意見には惑わされぬようにされたい。
『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』ヘドリック・スミス [新刊!]
オバマ大統領は一般教書演説で、「労働者の家庭を守ることがミドルクラスの経済だ」と述べ、中間層に配慮して、富裕層向けの税を教化する考えを打ち出した。経済は好調だが、その恩恵をもっとも受けるのは株式などを保有している富裕層なのだ。わが国でもそうだが、資産への課税を強化することが肝心だ。投資の神さまウォーレン・バフェット氏はいう。
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「お金でお金を稼ぐと、税率は非常に低くなります。力仕事や重労働で、額に汗してお金を稼ぐと、税率はどんどん上がります……大金持ちが支払っている税金が、彼らのオフィスを掃除する人たちより少ないということが、きわめて高い確率で起こりうるのです」
バフェットはみずから、二〇一〇年の所得税率がオフィスの社員(二〇人)のだれよりも低かったことを認めた。大半がキャピタルゲインだった課税所得三九八〇万ドルに対する税率は一七・四パーセントで、秘書やその他のアシスタントが給与から天引きされる率よりもずっと低かった。
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本書では、アメリカのミドルクラスが経済的圧迫を受け、縮小していくさまを、歴史的観点から鋭く考察している。我が国にも当てはまることが多い警世の書だ。
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「お金でお金を稼ぐと、税率は非常に低くなります。力仕事や重労働で、額に汗してお金を稼ぐと、税率はどんどん上がります……大金持ちが支払っている税金が、彼らのオフィスを掃除する人たちより少ないということが、きわめて高い確率で起こりうるのです」
バフェットはみずから、二〇一〇年の所得税率がオフィスの社員(二〇人)のだれよりも低かったことを認めた。大半がキャピタルゲインだった課税所得三九八〇万ドルに対する税率は一七・四パーセントで、秘書やその他のアシスタントが給与から天引きされる率よりもずっと低かった。
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本書では、アメリカのミドルクラスが経済的圧迫を受け、縮小していくさまを、歴史的観点から鋭く考察している。我が国にも当てはまることが多い警世の書だ。
誰がアメリカンドリームを奪ったのか?(上) 資本主義が生んだ格差大国
- 作者: ヘドリック・スミス
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2015/01/20
- メディア: 単行本
誰がアメリカンドリームを奪ったのか?(下) 貧困層へ転落する中間層
- 作者: ヘドリック・スミス
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2015/01/20
- メディア: 単行本
『たとえ傾いた世界でも』フランクリン&フェンリィ [新刊!]
『スノーボール――ウォーレン・バフェット伝』アリス・シュローダー [新刊!]
世界一の投資家の唯一の公認伝記。けっこう美人に弱いバフェットさん、こんな内輪のことまで明かして……あとで本人もあせったようですが、雪の玉を転がすようにして、堅実に資産を増やしていったバフェット流投資術の秘密がよくわかる。厳しい倫理を守りつつお金をこれほど稼いだ人間はまれだ。文庫化には、二章を追加した改訂新版を定本に用いている。待望の文庫だ!
スノーボール(改訂新版)〔上〕 ウォーレン・バフェット伝 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: アリス・シュローダー
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/06/03
- メディア: 文庫
スノーボール(改訂新版)〔中〕 ウォーレン・バフェット伝 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: アリス・シュローダー
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/06/03
- メディア: 文庫
スノーボール(改訂新版)〔下〕 ウォーレン・バフェット伝 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: アリス・シュローダー
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2014/06/03
- メディア: 文庫