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『レッド・メタル作戦発動』参考資料について(序) [本・読書]

(長い前置き)
 調べものにいささか手間がかかる超大作を終えた記念(?)に、使用したさまざまな資料についての情報を公表しようと思う。
 その理由は、このジャンルの翻訳にあまりにも手落ちが多いからだ。翻訳の水準を底上げしないことにはどうしようもない。あえて“誤訳”とせず“手落ち”というのは、もうすこし手順を丁寧に進めれば避けられることだからだ。

 ではここで、誤訳とはどういうものであるか、いくつか例をあげてみよう。
The Church became increasingly identified with opposition to the regime.
 誤「カトリック教会は、ますます現政権の敵と同一視されるようになった」
 正「カトリック教会は、ますます現政権の敵との関係を深めていった」
be identified withは、受動態であるときには、後者の意味になる。前者の意味であれば、identifyする主体がなければならない。すなわち、They became increasingly identify the Church with opposition to the regime.となる。
『ウィズダム英和辞典』の例文は――He became identified with the motorcycle gang.「彼は暴走族の仲間に加わるようになった」
 もうひとつ……。
The government is determined to check the growth of public spending.
 誤「政府は公共支出の伸びを確認しようと決意する」
 正「政府は公共投資の伸びを抑制しようと決意した」
『ウィズダム英和辞典』の例文は――check the advance of the enemy.「敵の進攻を食い止める」

 つぎに、“手落ち”の実例をあげる。1780年代のことである。
「軽装備の英駆逐艦XXXXを拿捕した」
 この時代、まだ「駆逐艦」は存在しない。軍艦名は継承されることが多い。おそらくウィキペディアでHMS・XXXXという艦名を入力し、「駆逐艦XXXX」がヒットしたのでそれだと思ったにちがいない。駆逐艦は魚雷艇(水雷艇とも呼ばれる)に対抗するために19世紀末に登場した艦種だから、1780年代には存在していない。
 手落ちというほどではないが、確認がいかにも甘いこともある。ある古典で、作者はルート66について「ミシシッピ川からベイカーズフィールドに達している」と書いている。しかし、ルート66の起点がシカゴであることは、常識だろう。だから、「ミシシッピ川の沿岸であるセントルイスを経て」と加筆するか、「“ミシシッピ川から”とはルート66の一部の母体となった旧ミズーリ州道(古いトレイルが起源)のことだろう」、「あるいはルート64との混同か?」などの訳注をつけるべきだ。この本ではマザーロードと称されるルート66が重要な役割を果たしているのに、これまでの訳者がそこまで調べず、なにも言及していないのが不思議でならない。
 しかし、これらはいずれも“誤訳”とはいいがたい。だから“手落ち”とする。そういうミスを犯さないためには、資料を渉猟しなければならないだろう。前置きが長くなったが、その一助として、この文章を記している。
 もっとも、いくら参考資料を示しても、利用しないようでは意味がない。
You can lead a horse to water, but you cannot make him drink.
「馬を水場に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない」という諺もある。


 
 

 




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