『イサベラ・バードの「日本奥地紀行」を読む』 [本・読書]
明治初頭に日本の各地をひとりで旅した大旅行家イザベラ・バードの『日本奥地紀行』を宮本常一が読み解く。「異人」なればこそ、日本人ならあたりまえと思っていて書かないことを書いている。そうした短い描写をもとに、日本民族のさまざまな側面を掘り下げている。
日本人は安全と水はただだと思っている、という悪口があるが、この時代、かくも安全に旅行することができたのは、誇りとすべきだろう。それに、バードが出会う庶民はみな正直で親切なのである。旅の制度も整っていて、荷物などの輸送態勢もしっかりしていた。ただし、物見高いのは日本人の昔からの習性で、好奇の目にさらされて閉口したのはたしかだった(それが発展をうながしたともいえる)。それと、この時代はまだ蚤や蚊も多く、地方の庶民は着たきりであまり風呂にもはいらない不潔な生活をしていたようだ。それでも、米沢盆地のような土地は、穀物や果物も豊富で、「地上の楽園」のようであったという。
こうした日本のよさは、ひとえに江戸時代ずっと戦争をしなかったことによる。戦後60年の反映もまた、平和におうところが大きいだろう。日本人のアイデンティティや、平和のありがたみを考えさせられる本である。講演を書き起こしたもので、文章はいたって読みやすい。