新・翻訳アップグレード教室(42) [翻訳]
額面どおりには受けとめられない言葉、というものがある。
原文にpenとあった場合、現代では、まずインクをペン先につける「ペン」や「万年筆」の場合はすくないだろう。たいがいボールペンだと思ってまちがいない。国語辞典の語義によれば、「ペン」には「ボールペン」も含まれているようだが、日常生活で「ボールペン」を「ペン」と言うことは少ないように思う。だから、そのまま「ペン」とするのはためらわれる。
こういうふうに、言葉と現実が時代を経てずれてきたもうひとつの例は、blotterだろう。英和辞典ではいまだに「吸い取り紙」となっているが、現在では「デスクマット」を指す場合がほとんどだ。いまなお吸い取り紙をblotter padと呼ばれる敷物においている御仁もいるかもしれない。わたしも吸い取り紙のついたローラーというのか……なにやらを持っている。しかし、十中八九、「デスクマット」のほうが適切だと思われる。
辞書に載っていない言葉というのは、ほんとうにいっぱいある。例えば、a Greek dinerを「ギリシア人の食堂」と訳しているのをよく見かけるが、これも時代の流れとともに普通名詞化した言葉だ。だから、いまはギリシア人とは関係のない店もこう呼ばれている。早朝から深夜まで営業している安食堂(たいがい酒は出さない)を、昔は港辺りでギリシャ人がやっていたのだろうか。舵輪やギリシャ風の安っぽいレリーフなどが飾られているこうした食堂を、東海岸で見かけたことがある。また、NYの屋台のシャシリク(シシカバブ)はトルコ人がやっているようだ。イタリア人も含めて、アメリカのこのあたりの食の世界は地中海人に占領されているといっても過言ではないだろう。
ところで、われわれは話し言葉では「ギリシャ」と言うが、正式には「ギリシア」らしい。うーむ。