ブルース・スプリングスティーン [ギター・音楽]
フォークミュージックをブルース・スプリングスティーンが歌う。「ウィ・シャル・オーヴァーカム:ザ・シーガー・セッションズ」はCD+ライブDVDなのだが、DVDの「メリー泣かないで」を見ていたら、涙がとまらなくなってしまった。ずっと前から知っていたのだが、「メリー泣かないで、ファラオの軍勢だって溺れたのだから」というリフレインの意味が、はじめてほんとうに心を打ったからだ。これはむろん出エジプト記にことよせて、自由を得ようと逃れる黒人奴隷の心を歌うゴスペルなのだ。
かつてオデッタは、「勝利を我らに」(このCDのタイトルのWe Shall Overcome)について、かならずしも公民権運動のことではなく、自分たちの問題に直面している若い恋人たちがなにかを勝ち取ろうとしていることであってもいい、と述べている。ブルースのこのアルバムは、商業主義に毒されて毒を失ってしまった歌の力をあらためて認めさせるものだろう。
ブルーグラスやフォークソングは、ともすれば白人の音楽ととられがちなのだが、たとえば「ジョン・ヘンリー」は、トンネル掘りの伝説的な黒人労働者であり、そのワークソングである。1960~70年代のフォークやロックは戦う音楽であったはずなのだが、いまやブルースとニール・ヤングぐらいしか残党はいない。
音楽と歌の力をまざまざと知ったアルバムだった。
ウィ・シャル・オーヴァーカム:ザ・シーガー・セッションズ(DVD付)
- アーティスト: ブルース・スプリングスティーン
- 出版社/メーカー: ソニーミュージックエンタテインメント
- 発売日: 2006/05/24
- メディア: CD