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新・翻訳アップグレード教室(38) [翻訳]

 翻訳という作業でいちばん大事なのは、「疑ってかかること」ではないかと思う。その場合、いちばん疑ってかからなければならないのは、自分の訳文なのである。
 そして、つねにaltanativeと複数のoptionがなければならない。

Later, the president called his father back and apologized for hanging up on him, and no permanent rift develolped, according to source familiar with the incident.

 ブッシュ大統領(現)が、シニアと電話で議論し、腹立ちまぎれに電話を切ってしまった。そのあとで電話をかけ直して謝った、という文脈である。ここでは、no permanent rift developedという部分だけを取りあげる。
「永続的な亀裂にはならなかった」「一生つづく不和にはならなかった」といったような表現が、まず頭に浮かぶだろう。まあ、まちがいとはいえないかもしれない。しかし、それが文脈に合うだろうか? それと、「――的」という言葉は、できるだけ避けたい。
 言葉の意味はわかっているのだから、ひとまず辞書は閉じよう。
 そして、目をつぶり。状況を思い浮かべる。
「永続的」「一生つづく」あるいは「亀裂」「不和」というのはoptionである。いろいろな言葉が考えられる。altanativeとは、まったくちがう発想から生まれるものでなければならない。表面をなぞった訳ではなく、もうちょっと踏み込むとどうなるか? それを考えてみよう。
 それに、「亀裂」「不和」という言葉は強すぎる。では、だれかとのあいだが気まずくなることを表現するとき、どんな言葉を使うか、そこから考える。やまとことばはないだろうか? 「しこり」「わだかまり」などはどうだろうか? 原語の語義を考えると、すこしずれるかもしれない。しかし、雰囲気はよくわかる。
 permanentはriftにかかるから、「しこり」に近づけた言葉を捜す。「あとあとまで残る」といういいまわしもいいかもしれない。その線で訳してみる。

 この出来事に詳しい複数の情報源によれば、後刻、ブッシュ大統領が父親に電話をかけ、途中で切ったのをあやまったので、しこりがあとあとまで残ることはなかったという。

 何度もいうようだが、ぜったいにこれが正しいという訳は存在しない。好みの問題もある。ただ、この項では、提案しているだけである。わかりやすくよみやすい訳文をできるだけこころがけ、翻訳書の読者を増やしたい――そういうふうに文章を編んでいってほしいと思う。


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