『ダ・ヴィンチ・コード』ばかりがなぜもてる? その2 [本・読書]
ソ連という「悪の帝国」が崩壊する前のほうが、たしかにスパイ小説や謀略小説は面白かった。でも、第二次世界大戦後にナチス・ドイツを悪役にした傑作冒険小説がけっこう出されていることを思えば、歴史的存在となったソ連を悪役にした小説があってもいい。いや、そういう小説はいま読んでも面白い。冷戦というシチュエーションは、冒険小説には面白い舞台を提供してくれた。
クレイグ・トーマスの『ファイアフォックス』は、クリント・イーストウッドの映画があるが、最新鋭戦闘機をソ連から盗むというプロットには奇想天外なアイデアが盛り込まれている。氷山が関係する場面など、ダン・ブラウンの『デセプション・ポイント』がアイデアを借用したのではないかと思われる。続編の『ファイアフォックス・ダウン』とあわせて読みたい。
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コード(暗号)ものなら、「ダ」ではじまるダン・ブラウンのベストセラー小説よりも、マイケル・バー・ゾウハーの『エニグマ奇襲指令』のほうがずっと面白い。エニグマ(謎)とは第二次世界大戦中のドイツの暗号機のことで、これを英国情報部がフランスの天才的泥棒に盗ませようとする。バー・ゾウハーははずれのまったくない作家だが、これは必読だろう。
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「ダ」で秘密結社に興味をおぼえた向きには、ロバート・ラドラムがおすすめだ。ダ・ブと同じで、プロットに若干ほつれが見られることもあるのだが、一気呵成に読めば、そんなことは気にならない。『ホルクロフトの盟約』『マタレーズ暗殺集団』など、題名を見ただけでもおどろおどろしいではないか。どれも楽しめること請け合いである。