『イエスの王朝』 [新刊!]
「イエス・キリスト」を人名辞典でひくと、(誕生年には諸説があるが)紀元前五年前後に生まれ、紀元二十九年に磔刑により死亡した、とされている。実在したイエスを歴史はそう解釈している。信仰上のイエスとは別の生身のイエス・キリストがそこにある。
『イエスの王朝』で作者テイバーは、ダビデ王の末裔であるイエスが、洗礼者ヨハネと連携して「ふたりのメシア運動」を展開し、一族をひきいて、王朝を打ち立てた、と唱える。
そしてこの「王朝」という衝撃的な言葉について、旧約・新約聖書・聖書外典などを根拠に、論証してゆく。ちなみにメシアとはヘブライ語で「頭に油を注がれたもの」(キリストはこのギリシャ語の同義語が語源)を意味する。これは王の即位の儀式に由来する。つまり、メシア=「王」という考えかたもある。
テイバーは、イエスの生い立ちや、謎になっている年月、洗礼者ヨハネの運動、「王朝」を引き継いだイエスの弟ヤコブの動きを、パレスチナという土地をよく知る歴史学者・考古学者・古代言語学者・聖書学者として考察する。狭い範囲の学問に偏っておらず、フィールドワークもじゅうぶんなので、読み物としてじつに面白い! 図版も多数ある。
テイバーは、聖書を史的言語学によって翻訳するthe Original Bible Projectの編集責任者でもあり、その聖書解釈は信頼性が高い。イエスにまつわる書物は多いが、これは必読の書のひとつだろう。
(伏見威蕃・黒川由美共訳でソフトバンククリエイティブより5月刊行予定)